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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第六章:境界線の残響、不沈の再定義

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第二十七話:不沈の防壁、ガーランドの意地

第二十七話:不沈の防壁、ガーランドの意地


1.閉ざされた最適解


空は、もはや青を失っていた。

ドッペルゲンガーが具現化した「黒き空母」から射出された艦載機群は、死を撒き散らす鉄の鳥となって王都の空を支配している。


空気を切り裂くジェットエンジンの咆哮。

それに続くのは、この世界の住人がかつて経験したことのない、純粋な物理エネルギーによる破壊だ。森はナパームによって粘りつく焔に呑まれ、平原は絨毯爆撃によって月のクレーターのように穿たれていく。


「……計算、不能」


サキモリは膝をついたまま、震える手で槍を握りしめていた。

彼の脳内では、かつて一万人を失った孤島の記録が無限に再生されている。あの時、彼が「勝利」を掴むために取った手段は、全兵力を囮として投入し、敵の計算能力を飽和させた隙に自らが中枢へ肉薄する、凄惨な消耗戦の果ての特攻であった。


(……同じだ。今、この場で勝利を定義するなら、この国の国民すべて、そしてルミナとエレンの命すらも攻撃を逸らすための資材として消費するしかない……)


だが、その論理を導き出した瞬間に、サキモリの思考は凍結した。

かつては「戦いとはそういうものだ」と割り切れた。だが、今の彼には、その「資材」の定義の中に、隣で必死に杖を振るう少女の息遣いや、共に食べたキャンプ飯の味が混じっている。


全員を犠牲にすれば、勝てる。

だが、それでは誰も守ったことにならない。

かつての「不沈」の定義が、今のサキモリという人間の中で、致命的なエラーを吐き出していた。


2.鋼鉄の足音、境界の再定義


「おじさん、しっかりしなさいよ! 結界がもたないわ!」


ルミナが必死に杖を突き出し、降り注ぐミサイルの破片を防いでいる。

だが、その結界もまた、科学の熱量に削られ、ひび割れていた。


サキモリが絶望的な沈黙に沈もうとした、その時。

大地を揺らすのは、爆撃の震動だけではなかった。

整然と、かつ力強く、軍靴が地面を叩く音が、サキモリの聴覚を捉えた。


「――全軍、盾を構えよ! 視線は水平、重心は三割後方! 隣の者の鼓動を感じ、魔力を同期させろ!」


凛烈たる号令。

爆炎を切り裂き、銀色の鎧に身を包んだ集団が、サキモリたちの周囲に滑り込んできた。聖騎士団長アリサ。そして、彼女が率いる百人の聖騎士たちだ。


「アリサ……団長? なぜ、ここに……。ここは戦場です、あなたの練度では、これほどの高熱量兵器は……」


サキモリが掠れた声で制止しようとする。

だが、アリサは振り返ることなく、サキモリの前に仁王立ちになった。


「サキモリ殿。貴殿は言いましたね。『死なない構造を維持しろ』と。……今こそ、教えを実践する時です。貴殿一人が盾になる必要などないのだ!」


アリサの剣が天を指す。

百人の騎士たちが、一斉に盾を重ねた。それはサキモリが地獄の訓練で叩き込んだ、寸分狂わぬ「不沈の構え」であった。


3.巨大なる概念盾「アイギスの盾」


連結コネクト! 魔力経路、一斉同期!」


奇跡が起きた。

百人の騎士たちの体から溢れ出た魔力が、個別の光ではなく、一つの巨大な「壁」へと編まれていく。


サキモリが教えた重心管理、そして衝撃を隣接する者へ逃がし合う「構造」の理。

それが、魔法という神秘の力と融合し、物理法則さえも屈服させる巨大な概念盾「アイギスの盾」を王都の空に展開した。


その瞬間、空母から放たれた数十発のミサイルが、盾の表面に激突した。


轟音。視界を白く染める閃光。

だが、誰一人として吹き飛ばされる者はいない。百人の騎士たちは、あたかも一本の太い杭のように大地に根を張り、爆風の衝撃を全員で、均等に、完璧に分散してみせた。


「……そんな。百人程度の魔力量で、ミサイルの運動エネルギーを完全に相殺した……?」


サキモリは目を見開いた。

彼の知る戦場では、盾を持った兵士はミサイルの前では紙屑に等しかった。だが、今、彼の目の前にいるのは、彼が「死なないために」鍛え上げた異世界の戦士たちだ。


ミサイルや爆弾は、空中で見えない壁に阻まれたかのように爆発し、黒い煙となって散っていく。王国への侵入路を、一筋の光の壁が完全に断絶していた。一歩も引かず、むしろ盾の圧力を高めていく騎士たち。その背中は、かつてサキモリが「勝利のために捨てざるを得なかった」命の価値を、力強く塗り替えていく。


4.継承された「不沈」


「……ああ」


サキモリの瞳から、一筋の熱いものが零れた。

それは、二十年間、凍りついていた不沈の男の情動だった。


「……私の指導を、ここまで……。これこそが、かつての私が、あの日、あの島で作るべきだった『死なない軍隊』の姿か」


サキモリは、震える手で槍を支え、ゆっくりと立ち上がった。

かつての彼は、自分が強すぎるがゆえに、他者を信じることができなかった。自分が一人ですべてを背負わねば、勝利を維持できないと確信し、その結果として、無数の命を消費する道を選んだ。


だが、今、目の前にあるのは、彼の「構造」を受け継ぎ、自らの意志で境界線を守り抜こうとする強き魂の連鎖だ。犠牲を前提とした「勝利」ではなく、生存を前提とした「防衛」。


「サキモリ様、お立ちください! 騎士たちの盾は頑強ですが、空の敵を討つには、貴殿の『矛』が必要ですわ!」


エレンが放つ光の矢が、翻弄される戦闘機の翼をかすめる。


「そうよ、おじさん! メンテナンスは終わったでしょ! 私たちも、アイツらに負けてられないんだから!」


ルミナが最大出力の魔力を練り上げ、騎士たちの盾を強化するためにその背中を支える。


サキモリは、灰色の軍服の汚れを払った。

彼の視界から、孤島の悪夢が消えていく。代わりに映るのは、今、この場所で、彼と共に戦い、彼を生かそうとする仲間たちの姿だ。


「……判定します。ガーランド騎士団の防衛能力、想定を二五〇パーセント上回る『極大』と定義。……これより、防衛工程を第二段階へ移行。全リソースを敵中枢の撃砕へと転換します」


サキモリの言葉に、迷いはない。

彼は、百人の騎士たちが作り出した「アイギスの盾」の内側で、かつての自分が見ることのなかった「不沈の先」を見据えた。


「アリサ殿、そのまま盾を維持してください。……私が、あの鉄の墓標を、今度こそ完全に解体します」


不沈の男の背中が、騎士たちの盾と重なり、かつてないほど巨大な境界線を形作っていく。

空母ドッペルゲンガーの黒い影を、サキモリの槍が冷徹に、そして熱く、捕捉した。

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