第二百五十七話:【限界突破:九百九十九への道】
第二百五十七話:【限界突破:九百九十九への道】
「サキモリ、だったかな。君たちはとても興味深いから一つ提案しよう。ボクはとあるダンジョンに挑みたいので、その同行と護衛をお願いしたいんだ。できるかい?」
机の上で足をぶらつかせながら、マヨはサキモリを上から目線で指さした。先ほどまでの「解体ショー」への熱意はどこへやら、今は別の「興味」に瞳を輝かせている。
「ええ、問題ありません。それで答えが得られるのであれば」
即答するサキモリの首を、ルミナが慌てて横から締め上げる。
「こらおじさん、勝手に決めない! マヨ、これは確約じゃないからね。魔族領とかは絶対ダメ。クリスタが許可している国内の場所であること。これが前提だよ?」
「いいんじゃないかな、それでオッケーだよ。堅苦しいねぇ」
マヨは小気味よく頷くと、白衣のポケットから煤けた記録媒体を取り出した。
「では、先にこちらがメリットを出してあげようじゃないか。君たちが信じているその『天井』の低さについてね」
マヨが指をパチンと鳴らすと、研究室の空間に魔力映像が浮かび上がった。そこに映し出されたのは、絶望的なまでの「構造の差」だった。
「レベル上限九十九なんてのは、人間側の勝手な思い込みに過ぎないのさ。本当の限界はそこじゃない。特定条件――つまり『限界突破ダンジョンのコア』に接触すれば、上限は九百九十九まで跳ね上がるんだよ」
「……九百九十九、ですか」
サキモリが眉を動かす。マヨは残酷な事実を淡々と、しかし楽しげに語り継ぐ。
「魔族側はこの事実を当然として運用している。人類が死に物狂いで育てた『九十九の勇者』が、向こうじゃただの雑兵に過ぎない理由だ。レベル二百を超える将軍級、五百を超える七魔王の手下……。さらには『無欲の魔王』と呼ばれる規格外は、秘宝を使って自分だけ上限を九千九百九十九まで引き上げている。レベル五千なんて個体も、あちら側には存在しているんだよ」
静まり返る一同。
最強だと信じていたレベル九十九が、世界規模ではスタートラインにすら立っていないという現実。シェーレは祈るように胸に手を当て、アリサは盾を握る手に力を込めた。
「レベル九十九に疑問を持つ着眼点、サキモリはなかなかに素晴らしいじゃないか。絶望するには十分すぎる数字だろう?」
ケラケラと笑うマヨ。だが、サキモリの瞳に絶望の色は微塵もなかった。
彼はマヨの提示したデータの矛盾点を一瞬で整理し、核心へと踏み込んだ。
「……一つ、確認させてください。マヨさんが狙っているそのダンジョンには、先ほど仰った『ダンジョンコア』があるということですか?」
その問いに、マヨは一瞬だけ虚を突かれたように目を見開き、そして今日一番の邪悪で無邪気な笑みを浮かべた。




