第二百五十六話:【森の異端者:青髪の解析者】
第二百五十六話:【森の異端者:青髪の解析者】
聖都クリスタの喧騒を離れ、一行は鬱蒼とした森の境界線に立っていた。
案内役の宰相メイは、どこか胃を押さえるような仕草を見せ、聖女シェーレは近衛兵の制止を振り切ってサキモリの隣を歩いている。
「……ここから先は、私が案内します。彼女は非常に個性的です。サキモリ殿、何が起きても冷静に対処されることをお勧めしますよ」
メイの言葉が終わるか終わらないかのうちに、森の奥から凄まじい爆発音と、鼻を突く魔力の焦げる臭いが漂ってきた。
辿り着いたのは、不自然に金属部品が散乱し、地面の一部がガラス化するほど熱せられた跡がある、歪な形状の研究室だった。
「いいんじゃないかな! 今の爆発、エネルギーの変換効率は悪くなかったねぇ!」
高く、幼い、しかし酷く尊大な声が響く。
研究室の扉は吹き飛んでいた。その入り口に立っていたのは、青い髪を乱雑なサイドポニーに結った、ルミナやミャオよりもさらに幼い少女だった。
彼女は煤で汚れた白衣を翻し、サキモリたちを認めると、大きな瞳をギラつかせて駆け寄ってきた。
「ほう……。宰相の小娘が珍しい客を連れてきたじゃないか。何だい、私に何か聞きたいことでもあるのかね?」
小柄な少女――マヨは、サキモリの腰にあるアイテムストレージを凝視し、鼻先が触れそうな距離まで顔を近づけた。
サキモリは、その子供のような挙動と、底の見えない知識の深さを観察し、口を開く。
「私は世界のレベルシステム、および勇者と一般人のスキルの差異について、合理的な解を求めてここに来ました」
「ふむ、いいんじゃないかな。君、面白いねぇ。レベルの限界、人類が勝手に引いた『九十九』という低い天井の正体が知りたいんだね」
マヨはニヤリと笑い、散乱した机の上に飛び乗って足を組んだ。
「いいよ、教えてあげるよ。……ただ、対価はどうするんだい? 私は慈善事業家じゃない。知りたいなら、それに見合うメリットを提示してもらわないとねぇ」
マヨはサキモリを指差し、子供のような無邪気な瞳で恐ろしいことを言い放った。
「君を解体させてくれるかい? そのストレージを繋いでいる身体構造、神経、魔力経路……全部バラして調べてみたいんだ。死なない範囲でなら配慮してあげてもいいよ!」
「……合理的な提案です。死なない範囲でよければ、許可しましょう」
サキモリが淡々と承諾し、その場で上着を脱ごうとした瞬間、周囲の空気が凍りついた。
「「「「「「ちょっと待ちなさい(待つんだにゃ)!!」」」」」」
ルミナがサキモリの首根っこを掴み、エレンが解体用メスを手に取ろうとするマヨの前に立ち塞がる。
アリサとミャオ、さらにはメイとシェーレまでもが顔を真っ青にしてサキモリを羽交い締めにし、全力で阻止にかかった。
「おじさん! 正気!? 解体されるなんて絶対にダメに決まってるでしょ!」
「サキモリ殿、冷静になってください! 死なない範囲と言っても限度がありますわ!」
「師匠、命を粗末にしちゃダメだにゃー!」
阿鼻叫喚の図となった研究室で、マヨだけがケラケラと笑いながら、面白そうにその光景を眺めていた。
「なるほど、興味深いねぇ……。これだけの人間が必死に守ろうとする個体。解体できないのは残念だけど、別の対価を考えてくれるかい?」
サキモリはルミナたちに押さえ込まれたまま、次の「メリット」を脳内で計算し始めた。
この少女から情報を引き出すには、肉体以上の「メリット」を差し出す必要がある。




