第二百五十五話:【鉄の軍勢:出立の儀】
第二百五十五話:【鉄の軍勢:出立の儀】
聖都クリスタの広大な訓練場は、銀色の輝きに埋め尽くされていた。
サキモリがアイテムストレージから次々と取り出し、披露したのは、一万本の剣と一万着の鎧。それらは一つとして形に狂いがなく、冷徹なまでの機能美を湛えて整然と並べられている。
その性能を証明するため、サキモリは出立を控えた志願兵の一人を前に立たせた。兵士が手にしているのは、彼の家系に伝わる「伝説の古剣」だ。
「全力で打ち合ってください。手加減は不要です」
サキモリの合図で、志願兵が量産剣を構えたサキモリへと斬りかかる。
鋭い金属音が響いた直後、訓練場に衝撃が走った。名だたる英雄が使ったとされる古剣が、サキモリの「量産品」に触れた瞬間、飴細工のように真っ二つに砕け散ったのだ。
「これを……名もなき兵士全員に配るというのですか?」
宰相メイが、震える声で問いかける。隣に立つ聖女シェーレも、目の前の「常識の破壊」に言葉を失っていた。
「そうです。これよりこの装備を一万名の全兵員に配布します」
サキモリは整列した兵士たちを冷徹な、しかしどこか祈るような眼差しで見つめた。
「なるべく死なずに、自分の命と仲間の命を第一に考えて、全体の一部として機能してきてください。予備はすべてクリスタの国庫にお預けします。運用の判断は任せますが、装備の欠損を恐れて足を止めることだけはやめてください」
配られた鎧は、羽のように軽く、肌に吸い付くような着心地だった。そして手にした剣は、かつての王が求めた伝説の切れ味を宿している。
自分たちが「無敵の歯車」になったことを確信した兵士たちから、地鳴りのような感謝の咆哮が沸き上がった。
歓声を背に、サキモリはメイとシェーレのもとへ歩み寄り、アリサに預けていた「今回使った合金インゴット」を渡した。
「伝説には、同等の合理的な現物を量産すれば対抗できます。このインゴットを解析すれば、今後の防衛策の土台になるはずです。ですが……」
サキモリの顔が、わずかに曇る。
「この世界の『レベル』という概念、どうしても腑に落ちません。前線の勇者たちは九十九、兵士は七十以上。ルミナ先生も九十九だと聞き及んでいます」
サキモリは手元の記録端末に映る、前線の魔族の戦闘データを指し示した。
「しかし、記録にある魔族の破壊力は、レベルという数値だけでは説明がつかない強さがあります。システムそのものに、我々の関知し得ない『歪み』があるように思えてならないのです」
圧倒的な物量で戦場を塗り替えたはずのサキモリの胸に、拭い去れない不安が過る。
レベルの限界、スキルの法則。その向こう側にある未知の脅威を前に、サキモリ自身や仲間たちの限界を静かに予感していた。




