第二百五十四話:【究極の地鉄:量産される聖剣】
第二百五十四話:【究極の地鉄:量産される聖剣】
防具の構造が完成した次なる工程は、矛の開発である。
サキモリは鎧で培ったミスリル合金のノウハウを、今度は攻撃の要である「剣」へと転用した。
彼が取り入れたのは、かつての世界で究極の刃物と称された日本刀の設計思想だ。
表面には高硬度の「皮鉄」を配して鋭利な切れ味を保ち、内部には柔軟な「心鉄」を芯として通すことで衝撃を逃がす複合構造。さらに魔力回路を焼き入れ工程に組み込み、機械的な正確さで分子構造を整えていく。
「これ、見た目はただの無骨な鉄の剣だけど……なんだか魔力が吸い込まれるみたいに静かだわ」
完成した一本を手に取り、エレンが不思議そうに呟いた。
派手な装飾も魔石の埋め込みもない。そこにあるのは、純粋な「切るための機能」だけが凝縮された銀色の塊だ。
「アリサさん、その剣を。――腕の力は一切使わず、あそこの大岩を片手で撫でるように切ってみてください」
サキモリに促され、アリサは半信半疑で剣を受け取った。
「サキモリ殿、無茶を仰らないでください。……折れても責任は取れませんからね?」
アリサが軽く足を踏み出し、重心を移動させる。魔力による強化も、聖騎士としての加護も乗せない。ただ、重力に従って剣を振り下ろした。
スルッ。
手応えは、水でも切ったかのようだった。
次の瞬間、重さ数トンはある巨大な岩が、重力に逆らえず左右に滑り落ちた。断面は鏡のように滑らかで、切り裂かれたことさえ理解していないかのような静寂がその場を支配した。
「……な、なんですの、これ。岩を切る感触すらありませんでしたわ」
「信じられないにゃ……。伝説の剣だって、こんなに簡単には切れないにゃ……」
驚愕に目を見開く一同に対し、サキモリは至極当然のことのように、手元の制御パネルを操作した。
「驚くことではありません。これは選ばれし勇者が持つ聖剣ではありません。私が設計し、機械が製造するだけの『ただの工業製品』です」
サキモリのストレージ内のコンビナートが重厚な駆動音を上げ始める。
オートメーション化された生産ラインでは、今まさにアリサが手にしたものと寸分違わぬ「究極の刃」が、秒単位の速度で次々と型に流し込まれ、焼き入れられていく。
「だからこそ、一万本用意できます。戦場にいるすべての兵士が、この切れ味を手にすることに意味があるのです」
一本で城が買えると言われる伝説級の性能が、サキモリの冷徹な計算によって「消耗品」として量産されていく。
その異常とも言える光景は、古き時代の英雄譚を、圧倒的な工業力で塗り潰そうとしていた。




