第二百五十三話:【洗練の極致:空飛ぶ鉄塊】
第二百五十三話:【洗練の極致:空飛ぶ鉄塊】
数日に及ぶ改良の末、地下演習場にはかつてない緊張感が漂っていた。
ミャオの身を包むのは、サキモリが内部緩衝構造をミリ単位で突き詰めた最新の「ミスリル超合金鎧」。その表面は鈍い光を放ち、周囲の魔力を静かに弾いている。
「ミャオ、準備はいいですね。……始めなさい」
サキモリの合図と同時に、ミャオの姿が掻き消えた。
ドォォォン!
凄まじい衝撃音が響く。
しかし、前回までのように無様に弾き飛ばされることはなかった。アリサの概念盾『アイギス』に正面から衝突したミャオは、空中で鮮やかに身を翻すと、猫のような柔軟さで壁を蹴り、即座に次の死角へと飛び込んだ。
「全然痛くないにゃ! この鎧、本当の意味で体の一部みたいに動けるにゃ!」
ミャオの声に弾みがつく。彼女は鎧の絶対的な硬度を確信し、自らの肉体を「鉄の弾丸」として完全に信頼していた。
弾かれても、空中で姿勢を制御。着地の瞬間にフェイントを織り交ぜ、左右上下、あらゆる角度からアリサの盾を叩く。
一方、防勢に回るアリサは、かつてないプレッシャーに冷や汗を流していた。一撃一撃が重く、それでいてミャオの動きは衰えるどころか、衝突の反動すら利用して加速している。
「くっ……一瞬も、集中を切らせられませんわ!」
アリサが盾を構え直し、聖騎士の魔力を全開にする。
だが、それから数十分が経過しても、ミャオが攻撃の手を緩めることはなかった。絶え間ない連打。衝撃の嵐。
それでもミャオは呼吸を乱さず、演習が終わる頃にはケロっとしてサキモリへ元気に手を振っていた。
サキモリは手元の計測器を下ろし、満足げに頷いた。
「防御力の安定は、攻撃の選択肢を劇的に広げます。自由に動け、かつ負傷を最大限に防げる防具があれば、兵の機動力も、戦線の継続性も飛躍的に向上するはずです」
サキモリが求めていたのは、英雄にしか着こなせない伝説の鎧ではない。
名もなき兵士が、戦場で一歩前に踏み出す勇気を持てる「構造」だった。
ミャオが脱ぎ捨てた鎧の表面には、アリサの盾と数百回激突したにもかかわらず、へこみはおろか小さな傷一つ付いていなかった。
その圧倒的な性能は、軍隊という組織そのものの戦術を根底から塗り替える「勝利の礎」となる。
「量産型鎧、完成です。これより、本格的な製造工程へと移行します」
サキモリの瞳には、すでに一万着の銀色の波が、前線を埋め尽くす光景が映し出されていた。




