第二百五十二話:【技術の限界:休憩と補給】
第二百五十二話:【技術の限界:休憩と補給】
拠点の地下に響き続けていた爆音と振動が、唐突に止んだ。
実験場の中心では、ミャオが糸の切れた人形のように力なく横たわっている。肉体の損傷こそルミナの即時治癒魔法で修復されているが、繰り返される衝撃と極限状態の連続に、彼女の精神的疲労が限界に達したのだ。
「……今日はここまでです。休憩に入ってください」
サキモリの静かな宣告を聞くと同時に、ミャオは返事もできぬまま深い眠りに落ちた。
「ちょっとおじさん! 本当にミャオを壊す気なの!?」
昏睡するように眠るミャオの傍らで、ルミナが目を吊り上げて詰め寄った。彼女の掌からは絶え間なく柔らかな光が溢れ、ミャオの精神的な摩耗を必死に和らげている。
「国を守るすべての兵の安全を保証するための極限テストです。私の妥協は、実戦における何百人、何千人もの命に関わります」
サキモリはルミナの怒りを正面から受け止めながらも、その言葉に一塵の迷いも見せなかった。
彼はそのまま背を向け、ストレージ内の在庫データと照らし合わせながら、激しい実験で枯渇し始めた微量元素の補給計算を練り始める。
「理屈は分かってるわよ! でも、言い方ってものがあるでしょ!」
ルミナがさらに食ってかかろうとした、その時だった。
「……これを」
サキモリが振り返り、無造作に一本の小瓶を差し出した。それは通常のポーションではなく、ミャオが好む果実の甘みを凝縮し、キンと冷やされた特製の栄養剤だった。
さらにサキモリは、眠るミャオの足元へ膝をついた。
激しい挙動の連続でボロボロになり、泥に汚れていた手首や足首のテーピング。彼はそれを躊躇なく解くと、新しい清潔なテープを取り出し、驚くほど手慣れた動きで丁寧に、かつ関節の可動を妨げない完璧な角度で巻き直していく。
その手つきは、先ほどまでの冷徹な「設計者」のものではない。
かつて多くの戦場を潜り抜け、仲間の痛みをその手で知ってきた「軍人」としての、静かな献身だった。
「……全く。素直じゃないんだから」
ルミナは毒気を抜かれたように大きな溜息をつき、怒りに震えていた肩の力を抜いた。
サキモリがミャオを誰よりも信頼し、同時にその命を何よりも重く考えていることは、その丁寧な指先が何よりも雄弁に物語っていた。
「微量元素の配合パターンを再編します。明日の試験では、さらに衝撃吸収率を五パーセント向上させます」
サキモリは立ち上がり、再び淡々と「構造」の修正へと戻る。
絶対に死なせない。その執念だけが、この孤独なエンジニアを突き動かしていた。




