第二百五十話:【鋼の試行錯誤:概念を砕く棒】
第二百五十話:【鋼の試行錯誤:概念を砕く棒】
ダンジョンから持ち帰った膨大な資源を前に、サキモリの「工房」は不眠不休の稼働を開始した。
並列加工の火花が散る中、彼が求めているのは単なる硬い金属ではない。衝撃を吸収する粘り強さと、決して折れない絶対的な硬度を併せ持つ「ミスリル合金チタン」の黄金比だ。
「まずはこの合金の棒の強度を試したいです。アリサさん、全力でアイギスで防御していただけますか?」
サキモリが手にしているのは、一見すると何の変哲もない銀色の金属棒だ。だが、その内部には計算し尽くされた比率でミスリルとチタンが配合されている。
「了解しました。――本気で来てください、サキモリ殿!」
アリサが愛盾『アイギス』を構え、聖騎士の魔力を凝縮させる。概念的な守護を誇るその盾は、並大抵の攻撃では傷一つ付かない。
サキモリは無言で踏み込み、全身のバネを乗せた一撃をその盾へと叩きつけた。
激しい金属音と共に、試作一号の棒は無残にも中央から「くの字」にひん曲がった。
「不合格ですね。炭素量とチタンの比率を再計算します」
サキモリは眉一つ動かさず、曲がった棒をストレージへ戻すと、即座に次の配合データを呼び出した。
それから、拠点の地下には延々と金属の衝突音が響き渡ることとなった。
十回、五十回、百回――。ある時は衝撃に耐えきれずガラスのように砕け、ある時は粘り気が強すぎて飴のように伸びた。
サキモリはその都度、ミクロ単位での結晶構造の変化を記録し、配合を微調整し続ける。
「おじさん、まだやるの? アリサだって、盾を支える腕が痺れてきてるわよ」
ルミナが心配そうに声をかけるが、サキモリの集中力は途切れない。
「前線の兵士が手にする剣が、実戦で折れることは死を意味します。ここで私が妥協する一ミリが、戦場での数百人の命に直結する。――アリサさん、もう一度」
「……ええ、受けて立ちますわ!」
そして、五百回を超える試行の末。
サキモリが振り抜いた一撃がアリサの盾を直撃した瞬間、これまでとは明らかに違う「音」が空間を支配した。衝撃波が拠点の空気を震わせ、アリサが数センチほど後退する。
だが、サキモリの手にある棒は、曲がることも、欠けることもなかった。
「……信じられません。サキモリ殿と私の全力を受けて、傷一つ付かないなんて」
アリサが驚愕の溜息を漏らす。
その棒は、概念の守護を誇る盾と真っ向からぶつかり合い、なおも平然と銀色の輝きを放っていた。
「合格です。ようやく『構造の基礎』が組み上がりました」
サキモリは静かに棒を見つめ、満足げに頷いた。
伝説を物理的に超えるための、最強のインゴットがここに完成したのである。




