第二百四十八話:【内政の極点:慈悲なき救済の構造】
第二百四十八話:【内政の極点:慈悲なき救済の構造】
聖都クリスタの広場には、かつての重苦しい静寂はもうなかった。
サキモリが敷設した「血流」が帝国の隅々にまで行き渡り、統計上の飢餓指数が劇的な低下を示したからだ。街の至る所で、国民がサキモリたちの名を呼び、「白銀の救世主」を称える熱狂的な歓声が響き渡っている。
「……奇跡、ですね。本当に、救われたのです」
宰相メイは、手元の報告書に並ぶ「死亡率の低下」と「食糧自給率の安定」という数字を信じられない面持ちで見つめていた。
その隣で、聖女シェーレは窓の外、活気を取り戻した街並みを見つめながら、その瞳に感動の涙を浮かべている。
かつて絶望と灰色の空気に包まれていた貧民街は、今やサキモリが供給した「安い塩と魚」によって、帝国のどこよりも早く活気を取り戻していた。
子供たちの頬には赤みが差し、大人たちの目には明日を信じる光が宿る。それは単なる食糧供給を超えた、社会構造そのものの変革であった。
「サキモリ殿、あなたへどう感謝を伝えればよいか……」
シェーレが深く頭を下げたとき、サキモリは対照的に、手元の膨大なデータシートから目を離さずにいた。
「感謝は不要です。これは構造を最適化した結果に過ぎませんから」
淡々と、温度のない声でサキモリは応じる。
だが、その視線の先にあるデータシートは、実はもう三十分も前から一文字も更新されていなかった。彼は、街から風に乗って聞こえてくる笑い声や、自分の名を呼ぶ歓声、そして目の前のシェーレが流した喜びの涙を、誰にも悟られぬよう胸の奥底で深く、深く噛み締めていた。
「これで、もう誰も飢えに怯えることはありませんね」
シェーレの穏やかな微笑みに対し、サキモリはわずかに指先を震わせながらも、即座に「合理的な仮面」を被り直した。
「国民の栄養状態が改善されれば、軍事・経済における人的資本の価値が上がります。国家構造の安定化において、これほど効率的な投資はありません」
「……もう、おじさん。少しは空気を読んでよね」
「サキモリ様らしいですわ」
「うむ、サキモリ殿らしいですね」
「師匠は素直じゃないにゃあ……」
サキモリのあまりに冷徹な「断言」に、報告室にルミナの深い溜息が響いた。
だが、サキモリの背中が、ほんの少しだけ誇らしげに、そして幸福感に満ちて緩んでいることを、彼女たちだけは知っていた。
歓声が止まぬ聖都の熱気を感じながら、サキモリは次の「救済の設計図」を、より一層力強く広げるのだった。




