第二百四十六話:【海洋資源のハック】
第二百四十六話:【海洋資源のハック】
東海岸拠点は、もはや単なる前線基地ではない。
サキモリはここを「帝国最大の食料供給源」へと作り替えるため、大胆な再編成を断行した。彼は訓練兵の二割を「漁業臨時部隊」として動員することを嘆願し、その実効支配へと乗り出したのである。
「これより、漁業を『運』から『工程』へと移行させます」
サキモリの合図とともに、組織的な海洋ハックが始まった。
まず動いたのはエレン率いる探知班だ。エレンの千里眼と、探知系魔法を操る兵士たちが連携し、広大な海に潜む巨大な魚群をピンポイントで特定していく。
位置が確定するや否や、今度はミャオを筆頭とした斥候部隊が海面を駆けた。彼女たちは水の上を滑るような神速の動きで魚群を包囲し、逃げ場を一点へと絞り込んでいく。
「目標、固定。――排除ならびに回収を開始します」
サキモリが愛槍を構え、攻撃魔法を主体とする魔導士たちに指示を出す。
次の瞬間、轟音が響き渡った。
サキモリの放つ百パーセント出力の正拳突きと、魔導士たちの爆裂魔法が同時に海面を叩いたのだ。物理的衝撃と魔力が激突し、海は爆発するように砕け散る。
海水が吹き飛んであらわになった海底には、逃げ場を失い跳ね回る無数の銀鱗が露呈していた。
「回収、急げ! 一匹たりとも逃がすな!」
アリサが率いる重装の運送部隊とミャオたちが、まだ潮の香りが残る海底へと一斉に飛び込んでいく。
彼らはまるで工場のベルトコンベアのように、次々と魚を拾い上げ、浜辺へと積み上げていった。その光景は「漁」というよりは、大規模な「資源回収」に近い。
後方では、調理部隊が戦場のような忙しさで稼働していた。
その中心を担うのは、上空をぷかぷかと浮遊するルミナだ。彼女は魔法の手を縦横無尽に操りながら、魚をさばく手順、塩漬けの力加減、燻製器の温度管理に至るまで、現場の兵士たちへ的確なアドバイスを飛ばしていく。
「そこ、塩もみが甘いわよ! おじさんの言う通り、もっとガチガチに固めて!」
ルミナの叱咤激励を受け、兵士たちは効率的に「製品」を仕上げていく。
その傍らでは、サキモリが構築した巨大塩田から、沸かせば即座に塩となる濃縮された「かん水」が絶え間なく溢れ出しており、加工プロセスを強力に支えていた。
数時間が経過した頃、浜辺には銀色に輝く巨大な山が築かれていた。
何千、何万という魚が整然と水揚げされ、加工されていく様は、まさに「工業的な漁業」の産声そのものだった。
だが、その完璧な作業工程を揺るがす影が海中から現れた。
仕掛けられた網を食い破らんとする、超巨大なクラーケンの触手だ。兵士たちが悲鳴を上げ、陣形が乱れかける。
「想定外の不純物です。排除します」
サキモリは表情一つ変えず、愛槍を水平に突き出した。
一閃。
衝撃波はクラーケンを直撃し、その巨体を海ごと数キロ先まで吹き飛ばした。
「おじさん、今のはどう見ても『不純物』ってレベルじゃないわよ……」
ルミナの呆れた声が響く中、サキモリは返り血を拭うこともなく、淡々と次の工程の確認へと戻った。
帝国を救うための「食料生産ライン」は、もはや誰にも止められない規模で稼働し始めたのである。




