第二百四十二話:【薫煙の長城:鉄則の長期保存】
第二百四十二話:【薫煙の長城:鉄則の長期保存】
浜辺を埋め尽くした銀色の山を前に、サキモリたちの休息はなかった。
確保された数トンに及ぶ魚を腐らせて無駄にすることは、サキモリの合理主義においても、仲間たちの心情としても、決して許容できないからだ。
「鮮度という不確定要素を排除します。すべてを塩漬けにし、燻製にしてから乾燥させましょう」
サキモリの静かな宣言とともに、巨大な食料加工プロセスが動き出す。
神速の解体:二人の刃
サキモリが拠点の横で、調合ストレージから取り出した資材を用いて巨大な「燻製・塩蔵コンビナート」を瞬く間に組み上げる間、四人は魚の解体に取り掛かった。
「さすがアリサさん、騎士団仕込みの包丁捌きですね。迷いがありません」
サキモリの称賛通り、アリサは巨大な魚を次々と正確な手際で切り分けていく。
その横では、熟練の調理人のように料理上手なルミナが、無駄のない動きで美しく、かつ素早く魚をさばいていった。
「おじさんに任せきりじゃなくて、こういうところで力にならなきゃね!」
ルミナの刃先が、魚の身を傷つけることなく内臓と骨を瞬時に分離させ、加工に最適な状態へと整えていく。
脱水の工程:塩の練り込み
解体された身を受け取るのは、エレンとミャオの役割だ。
二人は出来立ての純白の塩を、文字通り山のように贅沢に使い、魚の身に容赦なく刷り込んでいく。
「これでもかってくらい塗り込むにゃ! 悪い菌が寄り付かないようににゃ!」
「余分な水分をすべて絞り出します。保存性の肝は、この脱水工程にありますから」
エレンとミャオが力を込めて塩を揉み込むたびに、魚から水分が抜け、身が締まっていく。
昨日完成したばかりの五百メートル四方の塩田があったからこそ可能な、贅沢極まりない「完全塩蔵」の光景だった。
鋼鉄の形成:燻製と乾燥
サキモリは四人の作業スピードを正確に把握し、遅れることなく出来上がった塩漬けの魚を燻製所へと運び込んだ。
「次は煙の構造を適用します。素材の内部まで完全に定着させましょう」
サキモリはストレージから最適な香りの木材を選別して着火し、計算し尽くされた温度と密度で煙を焚き始める。
燻製所の通風孔を調整し、ルミナの風魔法で煙を効率よく循環させることで、通常なら数週間かかる工程が劇的に短縮されていった。
数日間の不眠不休の加工作業を経て、拠点の倉庫には異様な光景が広がる。
そこに築かれたのは、ガチガチに固まり、叩けば金属のような音がする「塩辛い鋼鉄の干し魚」の山だった。
数年単位での保存を可能にしたこの保存食は、圧倒的なエネルギー源であると同時に、戦地や困窮地で重宝される貴重な塩分資源そのものだ。
「これで、物流の壁も腐敗のリスクも克服しました。次は、この拠点にさらなる価値を付与しましょう」
サキモリは、塩と食料の山を背に、次なる目標である「医薬品」の収集へと視線を向けた。




