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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第二巻:第四幕:産業革命編 第五章【東方への指針:塩の海と鉄の道】

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第二百三十三話:【内政の結実:芽吹く大地】

第二百三十三話:【内政の結実:芽吹く大地】


朝日が聖都クリスタの白い石造りの街並みを照らす。


昨日までの鉄と蒸気の喧騒が嘘のように、王城の謁見の間には静謐な時間が流れていた。


サキモリたちが西側諸国への鉄道敷設という大事業を終えて帰還した翌朝。


王女シェーレと宰相メイは、主不在の間に進められた内政の成果を報告するために彼らを迎えた。


1.再生する大地


「サキモリ様、お帰りなさい。あなたが不在の間、教えられた通りに『仕組み』を動かしましたわ。見てください、窓の向こうを。聖都近郊の田畑が、まるで命を吹き返したかのように輝いています」


シェーレは今日一番の、向日葵のような笑顔で彼を迎えた。


その視線の先には、かつて立ち枯れ、ひび割れていた大地が、黒々とした肥沃な土へと塗り替えられた光景が広がっている。


宰相メイが具体的な数値が記された書類を広げ、落ち着いた声で詳細を報告し始めた。


「木炭の生産は極めて順調です。あなたが示した効率的な炭焼きの工程により、燃料の枯渇は回避されました。街道の整備も予定の八割を完了し、木材やモルタルの備蓄にもまだ余裕があります。ですが、何より驚愕すべきは……あの郊外に建設された『たい肥工場』の成果です」


メイの指が書類の一点を指す。


そこには、従来の農業常識を覆す収穫予測が並んでいた。


2.「負」を「正」に変える魔法


「あなたが指示した通り、都市の廃棄物や排泄物、そして大森林から集めさせた腐葉土をあの工場へ投入しました。好気発酵による温度管理と湿度管理を徹底した結果、あり得ないほどの量の肥料が生産されたのです」


それは、サキモリが持ち込んだ「循環の理」の結果であった。


かつて悪臭と疫病の源でしかなかったゴミが、高度なプロセスを経て、大地を癒やす「黒い黄金」へと姿を変えたのだ。


「現在はまだ聖都近隣の農村部に限られていますが、死んでいた土地が急速に回復し、作物の成長速度が格段に上がっています。この成果のおかげで、市場に集まる商人たちに対し、ドングリや野草、そして備蓄されていた塩漬けの干し魚や干し肉を、少しずつですが安価に供給できていますわ。国民の顔から、飢えへの恐怖が消えつつあります」


メイの言葉には、確かな手応えが宿っていた。


崩壊の淵にあった国家の歯車が、サキモリの提示した「構造」によって、再び力強く噛み合い始めている。


3.迫りくる「飢餓のデッドライン」


しかし、メイの表情がふと曇った。


彼女は手元の書類を裏返し、残酷な現実を突きつける。


「……ですが、課題もあります。国力が回復へ向かっているのは確かですが、国庫の塩、そして直接的な食糧の備蓄が、もう底を突きそうなのです」


「……底を、ですか」


サキモリの静かな問いに、メイは深く頷いた。


「田畑は回復していますが、作物が実り、収穫期を迎えるまでにはどうしても物理的な時間が必要です。今の備蓄量では、収穫の喜びを分かち合う前に、民の腹が空っぽになってしまうでしょう。特に『塩』の欠乏は致命的です。保存食も作れず、何より人の体力が持ちません」


内政の成功という光の裏側で、静かに、しかし確実に「飢餓」という名の足音が迫っていた。


次なる一手:白金の海へ


サキモリは視線を上げ、窓の向こう、まだ見ぬ東の地平線を見つめた。


「構造上の欠陥はありません。ただ、資源の到着が消費に追いついていないだけです。ならば、その資源を『創る』場所を確保しに行きましょう」


彼の言葉に、シェーレが期待に満ちた表情で尋ねる。


「東へ、向かわれるのですね?」


「はい。次は東の海岸線を開拓します。そこに大規模な塩田と、医薬品の製造工場を建設します。海という巨大な資源庫を、帝国の『胃袋』として繋ぎ合わせる必要があります」


サキモリの脳内では、既に東へと伸びる鉄の轍と、白く輝く塩の山が演算されていた。


「これまでの内政は土台に過ぎません。これからが、この国の本当の『新陳代謝』の始まりです」


大地が芽吹いた喜びと、目前に迫る資源枯渇の危機。


相反する感情が渦巻く謁見の間で、サキモリは既に次なる勝利への回路を繋ぎ始めていた。


帝国の真の再生を懸けた、東方開拓の旅路が今、その幕を開けようとしている。

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