第二百二十八話:【獣人の風と鉄の轍:獣人国カーマインの驚き】
第二百二十八話:【獣人の風と鉄の轍:獣人国カーマインの驚き】
聖都から西へ。
サキモリたちの爆速敷設によって伸ばされた鉄の轍は、ミャオの故郷である獣人国カーマインの国境へと到達した。
野生の直感に優れた獣人たちは、地を這うような重厚な振動と、見たこともない鉄の塊が吐き出す蒸気をいち早く察知し、次々とレールの傍らへと集まってくる。
「師匠! あたしの親戚たちが『変なのが来た』って大騒ぎだにゃ!」
先頭でレールを固定していたミャオが、集まってきた同胞たちの喧騒を聞きつけて叫ぶ。
その背後では、サキモリが機関車の出力と地形の勾配を瞬時に計算していた。
「ルミナ先生、あそこの坂道が少々急すぎます。機関車の牽引効率を維持するため、風魔法で一時的に傾斜の抵抗を減らしていただけますか?」
「了解。空気の層を調整して、摩擦を逃がせばいいんだね」
サキモリの冷静な指示に従い、ルミナが指先を振るう。
不可視の風の力によって「鉄の馬」は重力の影響を無視するかのように滑らかに加速し、驚愕する獣人たちの目の前を風のように駆け抜けていった。
終着点となる広場では、獣人王グレンが娘の帰還を待ちわびていた。
「……ミャオか? その身のこなし、そして瞳に宿る知性。たった一月足らずで、これほどまでに見違えるとはな」
機関車から飛び降りたミャオを、グレンは力強い抱擁で迎えた。
かつての無鉄砲な娘ではなく、サキモリの傍らで「構造」を学び、一国のインフラを支える技術者の一翼を担うまでに成長したミャオの姿に、王は深い喜びを露わにする。
「お父様、驚くのはまだ早いにゃ。これからこの国にも、新しい風――『産業』がやってくるんだにゃ!」
伝統と自然を重んじる獣人国に、鋼鉄の轍を通じて近代化の波が静かに、しかし確実に流れ込み始めた。
(第二百二十九話へ続く)




