第二百十四話:【森の主:レッサードラゴン解体ショー】
第二百十四話:【森の主:レッサードラゴン解体ショー】
大森林の最深部、陽光さえ届かぬ静寂の空間に、その巨躯は鎮座していた。
アースドラゴン級のオオトカゲ。レベル77という、上級勇者が命を懸けた修練の果てにようやく挑むことを許される、この領域の絶対強者である。
しかし、サキモリの瞳に映るそれは、乗り越えるべき壁ではなく、帝国の再建を加速させるための「希少な資源の塊」に過ぎなかった。
戦闘の火蓋は、アリサの踏み込みによって切られた。
山を思わせるアースドラゴンの猛攻に対し、彼女は概念盾「アイギス」を一点に集中させ、そのすべてを物理法則の外側で無効化する。
轟音と共に大地が爆ぜるが、アリサという鉄壁の後ろにいる仲間たちに、その衝撃が届くことはない。
「エレンさん、核の周辺を。ルミナ、神経系統の阻害を継続してください」
サキモリの冷静な指揮が飛ぶ。
エレンは巨体の隙間を縫うように、致命的な一撃を寸分の狂いもなく急所へ叩き込み続ける。
同時に、ルミナが放つ高密度の魔力が大蛇のような雷光となって四肢を縛り、一時的な麻痺を引き起こして反撃の芽を未然に摘んでいく。
ミャオもまた、サキモリとの「安全を第一に、絶対に無理をしてはいけないです」という約束を遵守し、戦場を駆ける。
回避を最優先しながらも、構造的な脆弱性が露呈した一瞬を突き、鋭い打撃を叩き込んで着実に体力を削っていく。
巨獣が疲弊し、その生命の灯が揺らいだ瞬間、サキモリが動いた。
最小限の予備動作から放たれた愛槍が、吸い込まれるように眉間を貫く。
絶命の余韻すら待たず、サキモリによる「解体」が始まった。
通常の刃では傷一つ付かないはずの外殻を、熟練度を増した手際で鮮やかに剥ぎ取り、肉、骨、そして上質な油、さらにはエネルギー源たる魔力核へと完璧に仕分けしていく。
それらは「帝国の技術発展」「食糧事情の改善」「インフラ整備」という各工程に最適な形で、次々とストレージへと格納された。
「……これで、帝国の職人たちに渡す『素材』が最低限ですが揃いました」
返り血を拭うこともなく、サキモリは淡々と告げる。
かつて森を支配し、人々に畏怖された王者は、もはや一国の再起を支えるための「高性能素材」という記録上の名詞へと成り下がっていた。
(第二百十五話へ続く)




