第二百十三話:【収穫の陣:死角なき採取システム】
第二百十三話:【収穫の陣:死角なき採取システム】
大森林の深部を進む一行の歩みは、一秒たりとも停滞することはない。
サキモリを中心に展開されるその陣形は、移動、戦闘、採取、そして加工のすべてを同時に完結させる、完成された自律システムへと進化していた。
情報の起点は、最後尾から戦場全体を俯瞰するエレンだ。
彼女の魔法を駆使した索敵は、もはや敵の接近を察知するだけに留まらない。
草木の陰に隠れた肥料用の高純度野草、岩陰にひっそりと根を張る高級ポーションの原料、そして枝にたわわに実る山ブドウや野イチゴといった貴重な栄養源。
それらすべての座標を瞬時に特定し、情報共有の魔法を介して一行の脳内へ直接投影していく。
「左前方、岩陰に薬草。その三メートル上、枝にクルミがあります」
エレンの報告が飛ぶと同時に、ミャオが地を蹴る。
彼女はサキモリの合図を待つまでもなく、野生の勘と驚異的な瞬発力で死角にある獲物を次々と回収した。
それらが地面に落ちる前に、ルミナが魔法の不可視の腕で引き寄せ、品質ごとに鮮やかに選別していく。
回収された素材は、そのままサキモリの「調合ストレージ」へと吸い込まれる。
サキモリは移動の歩みを緩めることなく、脳内作業だけでストレージ内の素材に「一次加工」を施していった。
不純物を取り除き、最適な温度と湿度で保存することで、素材の品質は採取時よりも高められ、帝国の産業を支える「完成品」へと昇華されていく。
その間も、森の主権を主張する魔物たちが間断なく襲い掛かる。
だが、そのすべてはアリサという鉄壁に阻まれた。
彼女は概念盾「アイギス」を構え、飛来する魔物を文字通り「食い止める」。
モース硬度一〇――ダイヤモンド級の硬度に固定された盾の縁によるシールドバッシュは、魔物の強靭な頭蓋を易々と粉砕した。
守りながら、確実に、一体ずつ。
アリサが仕留めた魔物の肉や革も、ルミナの手によって即座にサキモリへと運ばれる。
「……素晴らしい効率です。やはり、現場での一次加工こそが最適解でしたね」
サキモリは手帳に記録される膨大なリソースを確認し、淡々と、しかし確かな手応えを感じながら呟いた。
「ねぇ、師匠。歩きながらずっと何かを作ってるけど、疲れないのかニャ?」
ミャオの問いに対し、サキモリは感情を排した声で答える。
「ただ集めるだけでは半人前です。移動時間を加工時間に変換することで、熟練度は二倍の速度で上昇します。立ち止まって休息を取るよりも、動的な最適化を続ける方が構造的に合理的です」
サキモリの宣言通り、一行のステータスにはかつてない速度で経験値が蓄積されていた。
特にサキモリの「調合」熟練度は既に二十を突破。
そして、他者よりも異常に高い必要経験値を要求されるサキモリの「レベル」が、静かに、しかし力強く一つ上昇した。
それは個人としての武力以上に、世界を書き換えるための「生産力」が極限に達しつつある予兆であった。
(第二百十四話へ続く)




