第二百十一話:【魔境の選別:資源としての凶獣】
第二百十一話:【魔境の選別:資源としての凶獣】
大帝国クリスタの再建を左右する資材確保。その第一歩としてサキモリたちが選んだのは、帝都の北方に広がる禁忌の地「大森林ダンジョン」だった。
そこは、羽の生えた大蛇が樹上から奇襲し、巨大蜘蛛が粘着質の網で獲物を絡め取り、銀狼の群れが音もなく包囲する、高レベル冒険者ですら死を覚悟する魔境である。
しかし、サキモリの瞳に映るそれらは、忌むべき怪物などではなかった。
「……観測完了。右前方、銀狼の群れ。肉質は極めて良質、毛皮は防寒具の素材として最適。左上方の大蛇は、骨を加工して建材の補強材に、胆嚢は薬液の原料に分類します」
サキモリが静かに槍を振るうたび、かつて「恐怖」と呼ばれた存在は、次々と「素材」へと再定義されていく。
彼の攻撃には一切の無駄がない。急所を的確に貫き、素材としての価値を損なわないよう最小限の損傷で息の根を止める。それは戦闘というより、冷徹なまでの「解体作業」だった。
一行の連携は、もはや一つの生命体のような完成度を見せていた。
エレンが広域索敵で接敵を完全にコントロールし、敵をあらかじめ有利な地点へと誘導する。そこへアリサが概念盾「アイギス」を構えて立ち塞がり、どれほど凶悪な牙や爪であっても、その鉄壁の守りで完全に食い止める。
足止めされた魔物をサキモリが処理し、即座に解体ラインへと送る。
一時間、二時間と経過するにつれ、討伐された魔物の数は百を優に超えた。サキモリたちの背後には、動く魔物の一匹すら残らず、ただ効率的に仕分けされた資源の山がストレージへと吸い込まれていく。
その光景を横で見ていたミャオは、あまりの光景に戦慄を隠せなかった。
彼女にとって、大森林は「自然への畏怖」を象徴する場所だったからだ。
「ねぇ、師匠……これじゃあ、森が空っぽになっちゃうニャ……」
ポツリと漏らしたミャオの言葉に対し、サキモリは返り血を拭うこともなく、淡々と答えた。
「……ミャオ、認識を改めてください。これらはただの魔物ではありません。今の帝国においては、民の食事となり、健康の元となる『歩く資源』です。生態系の均衡よりも、まずは崩壊しつつある人間社会の構造を支えるための質量を確保するのが先決です」
あまりに冷徹なサキモリの返答にミャオが耳を伏せたとき、年長者でありエルフとしての深い知識を持つルミナが、穏やかな声で助け舟を出した。
「安心していいよミャオちゃん。ダンジョンの魔物は雑魚もボスも、一定時間が経過するとリスポーン……つまり復活するようになっているの。だから全部倒してもまた戻ってくるから、心置きなく狩っても大丈夫な場所なんだよ」
ルミナのフォローに、ミャオはホッとしたように表情を緩める。
その説明を横で聞いていたサキモリは、槍を構え直しながら短く応じた。
「それはなによりです。非常に便利な場所なのですね。では、効率をさらに上げましょう」
サキモリの指揮の下、古の魔境はその神秘を剥ぎ取られ、巨大な「採取場」へと変貌を遂げていく。
彼らにとって、この殺戮は略奪ではなく、未来を構築するための正当な「調達」に過ぎないのだ。
(第二百十二話へ続く)




