第二百十話:【改善の合意:救国への第一歩】
第二百十話:【改善の合意:救国への第一歩】
王城の作戦会議室。卓上に広げられたのは、サキモリが観測データから導き出した「帝国の再設計図」である。
それは、かつての勇者たちが示した魔王討伐の策ではなく、国家という巨大な装置を根底から作り直すための、緻密な工程表であった。
サキモリは、集まった王女と宰相、そして動揺を隠せない重鎮たちを前に、淡々と、しかし断固とした口調で指示を飛ばす。
「まず、倉庫に死蔵されている採掘時の副産物――石灰をすべて供出してください。これでモルタルを生成します。工業・土木の人材、および近衛軍を動員し、既存の街道を掘り起こしてモルタルによる簡易コンクリート道路を敷設します。物流の抵抗を物理的に排除するのが先決です」
あまりに具体的な提案に、室内には困惑が広がる。
だが、サキモリの「介入」は止まらない。
「その工事期間中、私たちが資材を確保してきます。宰相メイ殿、効率的に資源が採取できる『鉱山ダンジョン』と『大森林ダンジョン』の開放を。私たちが先頭に立ち、採取と加工を並行して行うことで、レベルと熟練度を上げつつ必要な資材を持ち帰ります。それまで、国内ではひたすら道路を整備してください」
さらにサキモリは、帝国の産業構造そのものにメスを入れた。
武器防具の生産を一時中断し、林業従事者と鍛冶師を総動員して石炭・木炭の生産をフル稼働させること。農業従事者には「草刈り」と「森林からの腐葉土採取」を命じ、排泄物と共に発酵させて大規模な肥料生産体制を整えること。そして、飢餓を脱するために、作物の九割を豆類と芋類に強制転換させること。
「……それは、あまりに民への負担が大きすぎませんか? 私たちの民は、もう限界なのです」
聖女シェーレと呼ばれる王女が、その慈愛ゆえに悲痛な声を漏らす。
しかし、その言葉を遮ったのは、実務の過酷さを知る宰相メイであった。
「……いいえ、シェーレ様。サキモリ殿の言う通りです。今やらねば、国そのものが死にます。甘い言葉で民をなだめる段階は、とうの昔に過ぎ去っているのです」
沈黙が会議室を支配した。
王女の優しさと、宰相の冷徹な現実感。その二つを繋ぎ止めるように、サキモリは「結果」を提示し続けた。
最終的に、サキモリが策定した基本戦略を軸に、彼が現地を視察しながら段階的に環境を整えていくことで、三者の合意が成立した。
それは、剣と魔法による解決ではなく、産業と内政による「国内経済と自国民の救済」という、新たな戦いの始まりであった。
「……では、始めましょうか。帝国クリスタという巨大な国家の、大改修を」
サキモリの宣言と共に、重厚な扉が開かれる。
外では、彼が命じた「新しい道」を作るための槌音が、早くも響き始めていた。
圧倒的な戦力と文明を誇りながらも、内側から朽ちかけていた巨人が、一人の「防人」の手によって、産業革命という未知の熱狂へと突き動かされていく。
(第三幕 第一章「大帝国への道」 完 / 次章「産業革命編」へ続く)




