第二百九話:【視察の開始:歪んだ設計の修正】
第二百九話:【視察の開始:歪んだ設計の修正】
王城の一角に、サキモリの「司令部」が置かれた。
彼はそこを拠点とし、大帝国クリスタという巨大な装置を正常に稼働させるための、本格的な内政改善に乗り出す。サキモリが求めたのは、机上の書類ではなく、今まさに現場で起きている生きた一次情報であった。
「エレンさん、広域遠視で水系の高低差と土砂の堆積状況を。ミャオ、あなたは地上の物流経路を実際に走り、路面の摩耗度を記録してきてください」
サキモリの指示を受け、仲間たちが即座に動く。エレンが魔法で数キロ先の地形を透視し、ミャオがその驚異的な機動力で街道の隅々を駆け抜ける。吸い上げられた膨大なデータは、サキモリの手帳の中で次々と冷徹な数値へと変換されていった。
数日後、サキモリは視察の結果を携え、帝国の土木官僚たちの前に立った。
「観測の結果を共有します。治水が滞っているのは、単なる資材不足ではありません。水路の配置が物理的な効率を無視しているため、無駄な人材を消費し続けているのです」
サキモリは図面の上に、現在の水路を最適化するための新たなラインを書き加える。さらに、ボロボロになった街道の記録映像を指し示した。
「この道路の舗装は、基礎の構造が弱すぎるため、メンテナンスのたびに貴重な労働力を浪費しています。私が提示する恒久的な舗装技術を導入すれば、維持コストを50%、物流コストは15%削減できるはずです」
サキモリの口から次々と飛び出す具体的な数値目標と、無駄を徹底的に排除した工程表。当初、「戦いを知らぬ若造が」と反発していた老練な官僚たちも、その冷徹なまでの正確さと、自分たちが長年目を背けてきた欠陥を完璧に射抜く論理に、次第に口を閉ざしていった。
サキモリが描く「帝国の設計図」は、もはや空想ではなく、具体的な現実としての重みを持ち始めていた。官僚たちの沈黙は、サキモリの能力に対する「畏怖」へと変わりつつある。
しかし、サキモリは手帳を閉じると、厳然たる事実を付け加えた。
「設計図は完成しました。ですが、現在の帝国において何より不足しているのは、これらを具現化するために必要な『資材』、そしてそれらを加工するための『技術』です」
設計は終わった。
次なる課題は、それを形にするための「供給源」の確保。サキモリの視線は、帝国の倉庫を越え、そのさらに先にある未踏の資源地帯へと向けられていた。
(第二百十話へ続く)




