第二百五話:【帝都の門:構造改変の準備完了】
第二百五話:【帝都の門:構造改変の準備完了】
地平線の先に、ついに大帝国クリスタの王都の威容が姿を現した。
整然と敷き詰められた石畳の美しさは、帝国の誇る高度な文明を象徴している。
しかし、その門を守る兵士たちの実態は、外見の美しさとはかけ離れたものだった。
サキモリは、門番たちの眼窩が落ち込み、空腹ゆえの苛立ちで目が血走っているのを冷静に観測する。
帝国の心臓部であるはずの王都においてすら、食糧事情の瓦解は隠しようのない段階に達していた。
「……到着しましたね」
サキモリが静かに告げる。
現在、彼の「調合ストレージ」には、道中で収集した膨大な資源が蓄積されている。
帝都の全人口を一ヶ月程度は維持できるだけの干物と、放棄された農地を短期間で再生させるための、驚異的な生命力を持つ「雑草作物の苗」。
これらは、今の帝国が喉から手が出るほど欲している、事実上の戦略兵器と言える。
だがサキモリは、その内包する巨大な価値を一切顔に出さず、懐から帝国主より送られた招待状を取り出し、門番へと差し出した。
「勇者サキモリ一行……通れ。上層部が待ちわびている」
震える手で招待状を確認した門番が合図を送ると、重厚な音を立てて帝都の巨大な門が開き始めた。
「ねぇ、師匠。これからすぐに王様に会うのかニャ?」
ミャオの不安げな問いかけに対し、サキモリは冷徹ながらも確信に満ちた声で答える。
「さて、まずは彼らの腹を満たしましょうか。空腹は思考にノイズを生みます。本格的な交渉を始めるのは、彼らが正気を取り戻してからです」
重厚な門をくぐり、五人の足音は大帝国の深部へと響いていく。
それは、戦いではなく「産業と内政」による新たな構造の始まりを告げる音であった。
(第二百六話へ続く)




