第二百四話:【孤島の流儀:ガチンコ漁の戦果】
第二百四話:【孤島の流儀:ガチンコ漁の戦果】
街道を進む一行の前に、豊かに水を湛えた大きな川が現れた。
大帝国の内政を支える「食糧」の確保において、水産資源の抽出は避けては通れない工程である。
サキモリは川の流れを観測すると、静かに荷物を下ろした。
かつて、日本の孤島という閉鎖的な構造の中で、ただ独り孤独に戦い、生き抜いた日々。
そこで培われたのは、魔法という奇跡に頼らない、剥き出しの生存技術だった。
「師匠、何をするつもりニャ?」
ミャオの問いに答えることなく、サキモリは川べりに転がる適当な大きさの岩を拾い上げた。
そこから始まったのは、通常の漁とは一線を画す、暴力的なまでの「効率」を追求した光景だった。
サキモリは川底に沈む巨大な岩を見定めると、手に持った岩を渾身の力で叩きつけた。
水中を伝播する凄まじい衝撃波。
それは本来、極限の生存環境でのみ許される禁じ手――「石叩き」と呼ばれる手法を、サキモリの身体能力で極大化させたものだった。
刹那、水面に気絶した魚たちが次々と白腹を見せて浮き上がってくる。
サキモリは息一つ乱さず、それらを手際よく回収し、即座に「干物」へと加工する作業に入った。
ストレージの塩を使い、焚き火の煙で燻す。
鱗を剥ぎ、内臓を抜く一連の動作には「料理」の情緒は一切ない。
そこにあるのは、目の前の生命を効率的に「資源」へと変換する、冷徹な処理のプロセスであった。
作業が一段落した頃、先ほどまで魚影が跳ねていた川面には、静寂だけが残されていた。
「ねぇ、師匠! 魚が、魚がいなくなるニャッ! これじゃあ生態系が崩壊するニャ!」
気絶した魚が根こそぎ回収され、文字通り魚が消え去った川を見て、ミャオは顔を青くして叫んだ。
しかし、サキモリは煙に目を細めることもなく、淡々と正論を置いた。
「……観測に基づいた、再生産可能な範囲内での抽出です。それに、今の帝国においては生態系の維持よりも、飢餓による構造崩壊を防ぐことの方が優先順位は高い。ただそれだけのことです」
無慈悲なまでの合理性。
だが、その背負った重みを知る仲間たちは、静かに出来上がった数百キログラムの干物をサキモリのストレージへと格納していった。
(第二百五話へ続く)




