第二百二話:【雑草の戦略価値:管理コストゼロの兵糧】
第二百二話:【雑草の戦略価値:管理コストゼロの兵糧】
一行の歩みは、かつてないほどに緩やかだ。
しかし、その一歩一歩が持つ意味は、強行軍をしていた頃よりも遥かに重い。
サキモリは大帝国クリスタの荒廃した大地を凝視しながら、現代知識と過酷なサバイバル経験を融合させ、目の前の「構造」を再定義していく。
「ルミナ先生、右方のドクダミとヨモギをお願いします」
「分かったよ。これは食用、こっちは薬用だよね」
ルミナはサキモリの言葉に従い、精密な魔力操作を展開する。
彼女の手から伸びる見えない指先が、傷一つ付けずに野草を摘み取り、赤いリボンが結ばれた革袋へと次々に収めていった。その袋がサキモリに手渡されると、中身は「調合ストレージ」へと送られ、時間が停止したかのような鮮度でストックされる。
さらに、サキモリの狙いは目に見える「葉」だけには留まらなかった。
彼は帝国の未来を支える「自立型資源」として、手間のかからない「ドングリ、クローバー、カラスエンドウ、ススキ、ヒエ、クズ、ノビル」などを苗ごと根こそぎ収集することに執念を燃やす。
「ミャオ、そこのクズの根を掘り起こしてください。それと、あの木の下のドングリをすべて。選別は私が後で行います」
「わ、分かったニャ……! でもこれ、ただのドングリだニャ?」
ミャオは戸惑いながらも、その俊敏な動きで散らばったドングリを拾い集める。
ルミナが魔力で近場の草花を黒いリボンの革袋に入れ、ミャオが少し離れた場所にある集めにくいが判別しやすい資源を回収する。
それは、一見するとピクニックのような穏やかな光景だが、その実態は「過酷な環境でも勝手に増殖し、人の手を必要としない不滅の兵糧」を確保する、極めて合理的な軍事行動に等しかった。
数時間の採取を終え、膨大な量の「雑草」がストレージに消えていく様子を見て、ミャオはついに堪えきれずに声を上げた。
「……ねぇ、師匠。さっきから見てるけど、そんな草ばっかり集めて一体どうするつもりニャ? お腹は膨れるかもしれないけど、こんなのどこにでも生えてるニャ!」
ミャオの呆れたような問いかけに対し、サキモリは手帳から目を離さず、淡々とした口調で答えた。
「……ミャオさん、認識を改めてください。これは『雑草』ではありません。敵対勢力すら除草という名の破壊を行うことができず、管理コストを一切必要としない、不滅の『食料』です」
その言葉の真意を、ミャオはまだ知らない。
この「どこにでも生えているもの」が、飢餓に喘ぐ大帝国の基盤を根底から揺るがす強力な武器になるということを。
(第二百三話へ続く)




