第二百一話:【枯渇の帝国:三重苦の構造】
第二百一話:【枯渇の帝国:三重苦の構造】
大帝国クリスタの国境を越えた一行を待っていたのは、かつて謳われた栄華の面影もない、静かなる崩壊の光景だった。
街道沿いに広がるのは、異常な気候変動によってひび割れた大地と、働き手を徴兵に奪われ、手入れを放棄された荒れ果てた農地。
サキモリは、検問所に立つ兵士の頬が鋭くこけ、その眼光に生気が欠けていることを鋭く観測する。
豪華な装飾が施された貴族の馬車から降りてきた者ですら、道端に生える貧相な野草を凝視し、無意識に喉を鳴らしていた。
「……帝国の基盤である『食糧事情』という基礎構造が瓦解しかけていますね」
サキモリは、帝国から送られていた書状の情報を基に分析し、その実態を少しずつ把握していく。
異常気象による凶作、前線への過剰な徴兵による労働力不足、そしてそれらを補うための軍事費捻出を目的とした過酷な重税。
これら「三重苦」が、帝国の生命線を末端から貴族層に至るまで、限界まで追い詰めている。
「この飢餓には既視感があります。まずは、この世界の『食べられる』の概念を変える必要がありますね」
サキモリは足元のドクダミを指差すと、一冊の手帳を取り出した。
彼は自身の記憶をもとに、食べられる野草、そして育てて増やせる作物となる野草のスケッチを緻密なメモとして書き始める。
そして、彼はもはや傍観するだけの観測者ではなく、この構造に介入する「防人」として言葉を発した。
「私が記録したものを可能な限り採取します。以前のように採取陣形を取りましょう。今回は単なる採取ではなく、帝国や人類の食糧事情を再構築するための『種まき』の最初の一歩です」
その宣言に、一行の空気が一変した。
「では記録した野草を私が探しますわ」
エレンはそう告げると、サキモリの右隣へと滑り込むように移動した。
彼女は高度な演算能力と観察眼を駆使し、数キロ先に至るまでの植生の中から、サキモリが定義した個体を次々と特定していく。
「私は集中できるように警護体制に入ります」
アリサは重厚な足音を立てて周囲の警戒へと回った。
概念盾「アイギス」を適切に運用し、作業に没頭する仲間を外部の脅威から遮断する。
「おじさん、イスを組み立てるからリュックおろして」
ルミナはサキモリから鞄を受け取ると、街道の脇で手際よくサキモリが背負うための椅子を組み立て始めた。
彼女はサキモリの肉体負荷を構造的に軽減させ、長期の採取作業を可能にする。
その洗練された、あまりに無駄のない一連の動作を、ミャオはただポカーンと眺めていた。
「……なにしてるんだろう?」
呆気に取られるミャオをよそに、サキモリは確実な手つきで、帝国の構造を再構築するための「種」を大地から掬い上げていった。
(第二百二話へ続く)




