第百九十七話:【禁忌の断片:神域への接触】
第百九十七話:【禁忌の断片:神域への接触】
王都バルバロイ、謁見の間。
かつて戦火を交えたグレン王や文武百官が固唾を飲んで見守る中、サキモリはその中心に立っていた。
彼の前にあるのは、同盟の約定に基づき封印が解除されたばかりの「禁忌のスキル書」だ。
サキモリが静かにその書を開いた瞬間、空間が震え、目も眩むような光が視界を塗りつぶした。
内容がサキモリの脳内へと直接書き込まれていき、読了と同時に、書は物理的な実体を失って光の粒子となり、霧散した。
【システムログ】
レベルが1上昇
スキルポイント1獲得
禁忌スキル『憑依・防人』を習得
熟練度:1/10000
ステータス画面に並ぶその文字列には、いかなる説明文も存在しない。
誰一人として正解を知らぬそのスキルを、サキモリは検証のために発動させた。
刹那、周囲の空間が絶対零度に達したかのように凍りついた。
誰もが呼吸を忘れ、世界の構造が書き換えられる予感に戦慄する。
しかし、発動時間はわずか0.1秒に過ぎなかった。
「……ッ、がはっ!」
0.1秒の経過後、サキモリは全身の毛細血管が弾けたかのように激しく吐血し、床に膝を突いた。
圧倒的な力の奔流に対し、現在の肉体強度が全く追いついていない証左だった。
「サキモリ殿!」
「おじさん!」
「師匠!」
駆け寄ろうとする仲間や騒然とする周囲を、サキモリは片手を挙げて制した。
彼は口元の血を拭い、顔色の悪さを隠すように、いつもの静かな微笑を浮かべる。
「……なるほど、ご心配をかけてすみませんでした。これは今の私では決して届かない『高み』の力です」
その言葉に嘘はなかった。
彼は内心で、今の短時間で触れた力の正体を確信していた。
それは、かつて日本で参拝した神社の海岸線に祭られていた、護国の軍神『住吉三神』をその身に降ろす、神域の力に等しい。
相応の実力なき行使は自滅を招く。
彼は仲間に余計な心配をかけぬよう、その驚異的な負荷を独りで背負い、人知れずこの力を制御するための修練を積むことを心に誓った。
(第百九十八話へ続く)




