第百八十七話:【第二王女ミャオ】
第百八十七話:【第二王女ミャオ】
調印式から数日、サキモリたちが旅立ちの準備を整えていたその時、静寂を切り裂くような怒声が響き渡った。
「兄上たちをいじめた不届き者は、どいつだニャ!」
扉を蹴破って乱入してきたのは、翡翠のような青緑色の毛並みを持つ猫耳の少女、第二王女ミャオであった。
小柄ながらも引き締まった体躯、そして鋭い眼光を放つ彼女の姿に、エレンは目を輝かせる。
「まあ、小さくてかわいいですわね」
エレンが年少者を愛でるような笑みを浮かべる一方で、ルミナは自らの胸元をそっと押さえ、絶望したように項垂れた。
「負けた……」
その低身長ゆえの可愛らしさと、若さ溢れる造形に敗北感を覚えるルミナの横で、アリサが静かに指を指した。
「キミの、お兄さんたちを倒したのはサキモリ殿だ」
「おのれサキモリ、覚悟するニャ!」
ターゲットを定めたミャオが、獣人特有の瞬発力でサキモリへと躍りかかる。
鋭い爪による引っ掻き、重い蹴り、そして風を切るパンチ。
しかし、サキモリは防御の姿勢すら取らず、ただ最小限の足捌きだけでその猛攻をいなしていく。
「……速いですが、動きが大ぶりですね。構造が崩れています」
サキモリはしばらく彼女の「武」の癖を観察していたが、何を言っても耳を貸さず、狂ったように攻撃を続けるミャオに対し、溜息を一つ吐いた。
「話を聞いていただけないのなら、一度休ませるしかありません」
猛攻の合間に生じた、ほんの僅かな隙。
サキモリが指を弾き、ミャオの額に鋭いデコピンを放つ。
それだけで、彼女の意識は糸が切れたように途絶え、その場に崩れ落ちた。
数刻後、目を覚ましたミャオの瞳には、先ほどまでの敵意ではなく、純粋な憧憬が宿っていた。
「サキモリ強いニャ! あたしを弟子にしてほしいニャ!」
突然の懇願に、サキモリは困惑の表情を隠せない。
「誰かの師が務まる身ではありません。私自身、未だ世界の仕組みを学び、修行している身ですので」
サキモリは穏やかに、しかし明確に断りを入れる。
だが、ミャオの決意は揺らがなかった。
「なら簡単だニャ! じゃあサキモリの修行を、あたしも一緒にするニャ!」
強引に同行を確定させたミャオの熱量に、ルミナはかわいそうなものを見るような目でサキモリを見つめ、苦笑いを浮かべた。
「あーぁ……」
こうして、断り切れない不確定要素を背負い、サキモリの旅路はさらに賑やかさを増していくこととなる。
(第百八十八話へ続く)




