第百八十六話:【対等なる同盟】
第百八十六話:【対等なる同盟】
獣王の降伏から数日が経過した。
王都バルバロイには、事態の急変を聞きつけた「盾の盟約連合」の外交官たちが、困惑と期待の入り混じった表情で続々と駆けつけていた。
かつては一触即発の緊張感に包まれていた謁見の間は、いまや歴史上初となる、人間側と獣人国による対等な調印式の場へと塗り替えられている。
「……では、これをもって盟約は成った」
グレン王は力強く署名し、重厚な羊皮紙をサキモリへと差し出した。
サキモリは実質的な同盟の立役者であり、獣人国を力で屈服させた当事者である。しかし、彼はその中心に座ることを良しとせず、署名欄の隅に、ただ一行だけ記した。
『観測者:サキモリ』
「私はあくまで、この仕組みがどう機能するかを見守る立場に過ぎませんから」
サキモリは淡々と、整った顔立ちの奥にある瞳を細めて微笑んだ。
調印式の締めくくりとして、グレン王は同盟の証を提示した。
それは領土の割譲でも、莫大な賠償金でもなかった。
「人質の交換などという古い慣習は不要だ。代わりに、我が娘……第二王女ミャオを貴殿らに預けたい。これは、次代を担う者同士の『人材交流』である」
グレン王の言葉に、周囲の官僚たちは一斉に沈黙し、ある者は露骨に安堵の息を漏らした。
彼らは知っていたのだ。
第二王女ミャオが、その可愛らしい容姿とは裏腹に、王でさえ手を焼くほどの「獣人国最大の問題児」であることを。
だが、そんな内情を知る由もない外交官たちは、王女の派遣という破格の条件に、友好の深まりを確信して拍手を送る。
サキモリは、その拍手の中に混じる官僚たちの不自然な視線を静かに拾い上げた。
「構造に、新しい『不確定要素』が加わりましたね」
新たな盟約の成立。
それが、さらなる騒がしい日々の幕開けになることを、この時のサキモリはまだ正確には予測していなかった。
(第百八十七話へ続く)




