第百七十九話:【数式の再編:魔法使いの限界】
第百七十九話:【数式の再編:魔法使いの限界】
次に、エレンの魔法に衝撃を受け、それを模倣しようと試みる魔導将軍ゼスが前に出た。
彼は持てる魔力をすべて注ぎ込み、演習場を飲み込むほどの極大の炎嵐を構築する。
サキモリはその熱波を前にしても眉一つ動かさず、むしろその術式の無駄の多さを惜しむように、静かに語りかけた。
「ゼスさん、魔法を単なるエネルギーの奔流として扱うのは、あまりに非効率です。私にとって、魔法は火器や弾薬と同じ『道具』に過ぎません」
サキモリは、ゼスが放とうとしている炎の渦を見つめ、その構成上の欠陥を一つひとつ丁寧に紐解いていく。
「まず『当てる前提』なのか、『当てるために誘導する前提』なのか、あるいは『行動を阻害するための威嚇』なのか。その目的を明確に使い分けてください」
「現状のあなたは、すべての弾丸を最大火力で無闇にバラ撒いている状態です」
サキモリは、ゼスが練り上げた魔力の流れを指し示しながら、最適化された運用の基礎を説いた。
「威嚇であれば、最小限の魔力で最大の視覚効果を得る省エネ運用を。そして、ここぞという確実な一撃にこそ、威力と命中率を最大化するためのリソースを集中させるべきです」
「……ほら、意識をここからここにずらすだけで、魔力の消費は半分以下に抑えられますよ」
サキモリは、混乱するゼスの背中を支えるように手を添え、魔力消費のコントロールを実演で手伝う。
彼が導く通りにゼスが術式を再構成すると、荒れ狂っていた炎嵐は一瞬で収束し、洗練された「狙い」を持つ鋭い一撃へと変貌した。
ゼスは、自身の術式がいかに浪費に満ちていたかを突きつけられ、その場に膝を突いた。
しかし、その瞳に絶望はない。
サキモリが示した、魔力を「構造」として管理し、効率的に運用するという深淵な知識に、一人の魔導師としての純粋な渇望を燃え上がらせていた。
「……これほどまでに無駄を省き、意思を通わせることができるとは。ご指導、感謝いたします。教官」
(第百八十話へ続く)




