第百八十話:【静寂の刃:ソードマスターの慢心】
第百八十話:【静寂の刃:ソードマスターの慢心】
剣聖の異名を持つジークが、神速の抜刀術を繰り出す。
だが、サキモリはその速度に惑わされることなく、抜刀の軌道が確定するよりも早くジークの手首を掴み、その動きを封じた。
「ジークさん、速さに頼るだけの斬撃は、その速度に対応できる相手にとっては、単なる直線的で避けやすく、迎撃しやすい的に過ぎません」
サキモリの声は、静かな教室内で響くように穏やかだ。
彼はジークの手をゆっくりと放すと、手本を示すように自身の身体の構造を整えた。
「かつての剣豪がそうであったように、一撃で終わらせるのではなく、斬撃による『檻』を構築するイメージを持ってください」
「まず、相手を捉える縦の『一の太刀』。もし相手が左右に回避しようとするなら、それを阻害し、逃げ場を奪う横の払いの『二の太刀』を即座に重ねる」
「そして最後に、その場で防御を試みる相手を仕留める斜め斬りの『三の太刀』です」
サキモリは、ジークの傍らでその腕の振りを優しく導き、三つの斬撃が淀みなく、一つの連続した型として完成するよう調整していく。
「この三連斬撃を一つの型として運用すれば、相手は回避することも防御することも許されない『檻』の中に閉じ込められることになります」
「速度ではなく、構造によって相手を詰ませるのです」
サキモリのアドバイスを受け、ジークが再び剣を振るうと、そこには先ほどまでの『速いだけ』の脆さは消えていた。
逃げ道を塞ぎ、相手を確実に死地へと追い込む完成された武の構造。
ジークは己の剣技がいかに荒削りであったかを悟り、最強を自負していたプライドが崩れ去るのを感じた。
代わりに、サキモリという『教官』が示した、武の真の極致を知りたいという強烈な渇望が、彼の魂を支配していった。
(第百八十一話へ続く)




