第百七十八話:【構造の歪み:槍使いの虚実】
第百七十八話:【構造の歪み:槍使いの虚実】
五将軍の一人、槍の達人であるガロンが咆哮とともに突きを放つ。
その穂先は空気を切り裂く鋭さを持っていたが、サキモリは最小限の動きでそれを回避し、吸い込まれるようにガロンの懐へと滑り込んだ。
「ガロンさん、あなたの槍は鋭いが、直線的すぎて『戻り』の構造を疎かにしています。それでは次の一手がコンマ数秒遅れてしまいますよ」
サキモリは争いを止めるような穏やかな手つきで、ガロンの肩にそっと手を置いた。
その瞬間、ガロンは自分の身体の軸が、サキモリの誘導によって強制的に書き換えられるのを感じた。
「腕の力だけに頼らず、重心を前後に揺らすイメージを持ってください。そうすれば、予備動作を最小限に抑えたまま、刺突と戻しを一つの円のように最適化できます」
サキモリは優しく、丁寧に語りかけながら、ガロンの重心を実際に前後、そして上下へと操作してみせる。
サキモリの指先が触れるたび、ガロンの肉体から無駄な力みが抜けていった。
「単調さを嫌うなら、重心を上下にわずかにスライドさせてみてください。それだけで、最短ルートを通ったまま上段と下段を自在に使い分けられます。……ほら、こうすればスムーズでしょう?」
サキモリのアドバイスに従い、ガロンが再び槍を振るうと、その軌道は見違えるほど滑らかで、かつ予測不能な鋭さを帯びた。
敵であったはずの自分に対し、慈愛に満ちた眼差しで「正解」を授けてくれる青年の姿に、ガロンの胸に去来したのは戦慄ではなく、深い敬意だった。
「……感謝する、教官。これほどまで、己の槍が軽く感じるとは」
ガロンは深く頭を下げた。
演習場に、新たな「学び」の空気が流れ始める。
(第百七十九話へ続く)




