第百七十七話:【常用10%:サキモリの武】
第百七十七話:【常用10%:サキモリの武】
ルミナに頭を撫でられ、幸福感の中で戦意を削がれた五将軍を眺め、サキモリは穏やかに目を細めた。
「そうですね、ルミナ先生。彼らはきっと真面目なだけなんだと思います」
そう言って、サキモリは背負っていた荷物を静かに地面へ下ろし、愛用の槍をアリサへと預けた。
「私が一人でお相手します。お願いします」
最後に一人、サキモリが五将軍の前に立つ。
魔力に頼ることもなく、ただそこに「在る」だけの自然体。
しかし、再開の合図とともに、その身体は物理法則を置き去りにした。
第一王子が放った渾身の斬撃を、サキモリは紙一重の最小限の動きで回避する。
直後に放たれた広範囲魔法がサキモリを飲み込み爆散したが、爆煙の向こう側に彼の姿はなかった。
「これだけで、あなたは負けてしまいます」
戦慄する王子の背後、死角から響く静かな声。
王子の首筋には、サキモリが手にした鋭い小石の先端が添えられていた。
一瞬でも動けば命を刈り取れる距離。
五将軍が息を呑む中、サキモリは満足げに頷くと、小石を捨てて数歩下がった。
「さて、再開しましょう」
再び開始される戦闘。
突撃してくる剣を柳のように受け流し、槍の刺突と魔法の同時攻撃に対しては、右手を下から上へすくい上げるように振るった。
それだけで巻き起こった突風が、魔法の構成を霧散させ、槍の軌道を風圧だけで弾き飛ばす。
彼らが誇る物理・魔法のあらゆる攻撃手段は、サキモリの動きという「構造」を突破できない。
サキモリには傷一つ付かず、逆に五将軍は何度も「詰み」の状況に追い込まれていく。
首筋を撫でる小石。
頸動脈を軽く掴む掌。
攻めているのは常に五将軍のはずだった。
しかし、一撃を繰り出すたびに死の淵を覗かされるのは、紛れもなく彼ら五将軍の方であった。
その精神的な磨耗は、肉体的な疲労を遥かに超え、彼らを底なしの絶望へと突き落としていった。
(第百七十八話へ続く)




