第百七十四話:【演習場の悪夢】
第百七十四話:【演習場の悪夢】
演習場の中央、対峙するのは獣人国が誇る武の象徴、王直属の「五将軍」であった。
その筆頭には、次期国王と目される第一王子の姿もある。
彼らは一万の軍勢が倒された後もなお、「真の強者同士の戦いならば、我らが後れを取るはずがない」という、選ばれし者ゆえの自負を捨てきれずにいた。
サキモリは後ろに下がり、その背中を叩くようにしてアリサを前へと送り出した。
「アリサ。あなたの『守護』を、彼らに見せてあげてください」
「承知した、サキモリ殿」
アリサは静かに一歩前へ出る。
五将軍がそれぞれの武器を構え、地を蹴ったその瞬間、彼女の周囲に圧倒的な神聖魔力が溢れ出した。
概念盾「アイギス」。
それは四人を囲い込むように、四方からそびえ立つ透明な城壁となって顕現した。
大山が地から生えたかのような、動かしがたい重厚な気配。
五将軍が放つ、大地を割るような斬撃も、空気を焦がす最上位魔法も、その輝く壁に触れた瞬間に光の粒子となって霧散していく。
かすり傷一つすら残せない。
「馬鹿な……! 全く、通じないのか……!?」
第一王子が放った渾身の一撃すら、アイギスは火花一つ散らさず、無音のまま跳ね返した。
どれほど苛烈な連撃を叩き込もうとも、生じた微細な揺らぎは瞬きよりも速く修復され、常に完璧な「平滑」を保ち続ける。
さらに将軍たちを戦慄させたのは、その壁が透き通っていることだった。
アリサは、盾の向こう側で必死に武器を振るう彼らの動きを、死角一つない透明な視界から冷静に見据えている。
一方的な拒絶を突きつけられながら、なおも自分たちの無様な姿を克明に観察されているという事実が、将軍たちの心を折っていった。
彼らが積み上げてきたレベル、磨き上げた技、そのすべてが「存在しないもの」として扱われる絶望。
アリサは盾の陰から、困惑と恐怖に顔を歪める将軍たちを真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、敵意ではなく、ただ「守り抜く」という静かな決意だけが宿っている。
「……次は、全員同時に来るといい」
その挑発ですら、事実を淡々と述べたに過ぎない。
五人がかりでようやく、この不変の領域と対峙する資格が得られるのだと。
蹂躙とは、必ずしも攻撃によってのみ行われるものではないことを、アリサの盾が証明していた。
(第百七十五話へ続く)




