第百七十話:【開戦の雷鳴:0.1秒の断罪】
第百七十話:【開戦の雷鳴:0.1秒の断罪】
サキモリの宣告を嘲笑うかのように、獣人の先遣隊が地響きを立てて突撃を開始した。
その距離が、境界として示された岩に触れた瞬間――世界から「慈悲」という概念が消失する。
サキモリは足元に転がっていた無造作な小石を一つ、拾い上げた。
彼がそれを軽く放った瞬間、物理法則が書き換えられる。
投げられた小石は空気を切り裂く衝撃波を纏い、りゅう弾砲すら凌駕する圧倒的な質量と熱量を帯びた「小隕石」へと変貌した。
それが先遣隊の正面に直撃した刹那、大地は爆砕され、土も地面も赤黒い熱を持って溶解する。
軍勢の最前列は一瞬で消失し、戦場には巨大な窪地が穿たれた。
戦況が劇的に塗り替えられる中、少女たちもまた「神域」の力を解放する。
アリサが掲げた盾から、概念盾「アイギス」が巨大な城門のごとき威容で顕現した。
彼女がそれを無造作に前方へ押し出す「シールドバッシュ」を放つと、発生した物理的な衝撃波が、前進してきた軍勢を木の葉のように弾き飛ばしていく。
その頭上からは、エレンによる精密な魔法の雨が降り注ぐ。
彼女が放った一本の光の矢は、上空で一が十、十が二十へと幾何学的に増殖し、数千というアローレインとなって獣人兵を正確に穿った。
「おじさん、敵の配置、全部繋ぐよ」
サキモリは一歩も動かない。
ルミナによる「思考共有」が、四方十キロメートル圏内の戦況、そして兵士一人ひとりの動悸に至るまでを彼の脳内に同期させていた。
彼にとってこの戦場は、すでに整理の終わった盤面に過ぎない。
立ち込める爆煙を切り裂き、獣人王グレンが咆哮と共に武器を手に立ち上がる。
だが、その瞬間に視界からサキモリの姿が消えた。
グレンが異変を察知した時には、すでに遅い。
兵士たちの合間を「縮地」の連続運用によって爆速で踏破したサキモリが、物理限界を超えた移動速度で、王の目前に静かに立っていた。
「さて、力試しの続きをしましょうか」
無機質な瞳がグレンを射抜く。
獣人国が積み上げてきたプライドと、人類の到達点という自負が、根底から崩れ去る瞬間の幕開けであった。




