第百六十七話:【報復の軍靴:カーマインの決断】
第百六十七話:【報復の軍靴:カーマインの決断】
バルバロイから逃げ帰った使者の報告を受け、獣人国カーマインの玉座の間は、かつてない怒気に包まれていた。
獣人王グレンは、粉砕された親書の報告を聞き届けると、その強靭な爪で王座の肘掛けを深々と削り取った。
「人間風情が、我が国の厚意を無に帰したばかりか、恐怖を植え付けたというのか。よかろう、力による支配が世界の理であることを、その身に刻んでやる」
グレンは直ちに、自国の誇る最精鋭部隊「鉄牙大隊」の動員を決定する。
彼らは援軍や助力を主とする傭兵稼業の商売用の部隊とは一線を画す、国を自衛する近衛軍の選り抜きであった。
大隊の構成員は、一人残らずレベル50以上の猛者で構成されている。
かつて世界を救った伝説の勇者のレベルが56であったという伝承に鑑みれば、兵の一人ひとりが人類の到達点に近い実力を備えていることになる。
軍事会議の場では、将軍たちが地図を囲み、楽観的な策謀を巡らせていた。
「サキモリとやらは、魔族を討った特殊な力を有する勇者の一人に過ぎん。我が鉄牙大隊の物理的な暴力の前に、個人の小細工など無力だ」
彼らは、魔族と直接戦う最前線から距離を置き、国を守る盾として君臨し続けてきた。
ゆえに、本当の意味での強敵、電力的な、そしてサキモリという「現代兵器以上のナニカ」の正体を知らない。
個々のスペックが現代の軍隊を凌駕するという過剰な自負が、彼らの眼を曇らせていた。
「一万の精鋭で踏み潰せば、どのような魔法も、どのような意志も、物理的な質量の下に沈む。それが構造だ」
油断に満ちた結論と共に、軍靴の音が鳴り響く。
国境付近には、土煙を上げながら獣人の大軍が集結し始めていた。
その数日後、バルバロイの静寂は、馬を飛ばしてきた伝令の叫びによって破られる。
「報告! 東方国境に獣人国カーマインの主力軍、集結中! その数、およそ一万!」
その報せは、平和を享受し始めていた盟約連合の国々を、再び戦慄の渦へと突き落とした。




