第百六十五話:【傲慢の代償:静かなる衝突】
第百六十五話:【傲慢の代償:静かなる衝突】
謁見の間には、獣人国の特使が持ち込んだ「隷属の首輪」が冷たく転がされていた。
それは魔力抑制具としての機能以上に、装着者の尊厳を剥奪し、所有物であることを誇示するための卑劣な道具であった。
「盾の盟約連合は解散し、貴殿らは我らカーマインの管理下に入る。まずはその首輪を。貴殿のみならず、背後の三名も同様だ」
使者の言葉に、バルバロイの幹部たちは激昂し、殺気立った怒号が響く。
しかし、サキモリはただ座したまま、微動だにせず使者の目を見つめていた。
サキモリの脳内では、冷徹な「構造」の整理が行われていた。
盟約連合が平和になり、自分一人が新たな戦場で消費されるだけで済むならば、それは「有力な代替品」としての役割に過ぎない。
だが、彼らの要求はサキモリが守り抜いたこの国を隷属させ、何より大切な仲間である三人の少女にまで、奴隷の証を強いるというものだった。
それは、サキモリにとって明確な「許容範囲外」の敵対行為である。
サキモリは言葉を発しない。
ただ、静かに視線を合わせた。
次の瞬間、空間の「密度」が変質した。
言葉や魔力による攻撃ではない。純粋な存在の重みが、合気の要領で使者の視覚から脳へと直接「殺気」を叩き込む。
「……ッ!?」
使者たちの視線はサキモリの瞳に釘付けとなり、逃れることすら許されない。
技術を持って「射抜かれた」だけの圧力が、物理的な質量を伴って宮殿の床を沈ませ、石畳に蜘蛛の巣状の亀裂を走らせる。
サキモリの静かな怒りは、もはや生物が抗える領域を超えていた。
圧倒的な威圧に、使者たちの強靭な膝が、まるで意思を持たないかのように折れ、床に叩きつけられる。
沈黙が支配する謁見の間で、異様な音が響いた。
サキモリの視線を正面から受けた使者の一人が、恐怖のあまり失禁し、その場に崩れ落ちたのである。
凍りついた空気の中、サキモリの瞳だけが、淡々と世界の構造を観測し続けていた。
(第百六十六話へ続く)




