第百六十四話:【牙を剥く使者:カーマインの威光】
第百六十四話:【牙を剥く使者:カーマインの威光】
バルバロイの街に、不協和音のような軍靴の響きが鳴り渡る。
東方の人類諸国連合が誇る強国、獣人国カーマインから派遣された特使団が到着した。
彼らの足取りには、魔王領と接する帝国への派兵を担っているという、選民思想に近い自負が溢れている。
特使たちは、すれ違うバルバロイの民を「魔王に怯えていた臆病者の小国」と嘲笑し、特に脆弱な「人間種」が寄り集まって平穏を貪っている現状を、隠そうともせずに見下していた。
「これが、魔王の配下ごときに震えていた街か。文明の香りが薄いな」
獣人の特使は、バルバロイの街並みを鼻で笑い、行き交う人々を家畜を見るような冷徹な視線で射抜く。
彼らにとって、ジャバウォック討伐という偉業すら、適切な指導者がいなかったがゆえの苦戦に過ぎない。
特使団は、サキモリに対してもその不遜な態度を崩さない。
「その『サキモリ』という男も、我ら獣人国が管理してやれば、より効率的に働けるものを。野放しにしておくのは、戦略資源の無駄遣いだ」
政治的無知と武力への過信。
彼らは、サキモリがすでに既存の国家という「構造」を超越した『観測者』へと至っていることに、未だ気づいていない。
重厚な宮殿の扉が開かれ、一行は謁見の間へと進む。
その中央、世界の理を静かに見据えるような佇まいで、サキモリが待っていた。
傍らには、慈愛を秘めたルミナ、凛としたエレン、そして鉄壁の風格を漂わせるアリサが控えている。
傲慢な牙を剥く使者と、全てを整理し終えたかのような静かな瞳。
両者が初めて対面した瞬間、空気は一変し、逃げ場の無い重圧が空間を支配し始めた。




