第百五十九話:【勇者という名の消耗品】
第百五十九話:【勇者という名の消耗品】
大帝国クリスタの重厚な石壁に囲まれた作戦会議室では、人命ではなく「数値」としての勇者が語られていた。
この大陸において、数千人に一人と言われるレベル九十九の逸材。
現代兵器を凌駕するユニークスキルを保持する彼らは、本来であれば歴史に名を刻む英雄となるはずだった。
しかし、魔族の圧倒的な物量と、概念すら書き換える上位個体の前では、その「英雄」たちですら毎年のように使い潰される消耗品に過ぎない。
「昨月の戦線維持による損失は三名。補充の聖剣使いは来週到着予定です」
指導者たちの間で交わされるのは、血の通った対話ではなく、摩耗した「予備パーツ」の交換記録である。
彼らにとって、勇者の価値とは生存ではなく、いかに長く戦線を停滞させられるかという一点に集約されていた。
その冷徹な政治劇の俎上に、今、新たな名前が載せられる。
「南中央のサキモリ。ジャバウォックを屠ったというその特異な能力、育てば『便利な道具』になるかしら?」
人類諸国連合の指導者たちは、サキモリを救世主などとは見ていない。
彼女らの目に映るのは、前線で磨り減った勇者たちの欠員を埋め、あるいは強力な支援を与えるための、新たな「高機能な駒」としての姿だけだった。
その傲慢な視線は、直接魔王領と接していないがゆえに軍事力を温存し、傭兵を派遣することで発言権を得ている獣人国において、より露骨な形となって現れる。
「サキモリか。面白い能力のようだ。我が国の管理下に置き、その有効性を試してやろう。価値の高い駒になるかもしれん」
不遜な笑みと共に綴られた密書。
それは、サキモリを一個の人間としてではなく、自国の国力を増強するための、あるいは主戦場に放り込むための「戦略物資」として扱う非情な宣告であった。
(第百六十話へ続く)




