第百五十八話:【深淵の序列:魔神王と七魔王】
第百五十八話:【深淵の序列:魔神王と七魔王】
大陸アステリアの最北、光すらも絶望に塗り潰された魔族の勢力圏。
その最深部には、世界の理を支配する絶対的な「構造」が鎮座している。
頂点に座すは、「無欲」の魔神王。
その意志を執行する手足として、大罪の名を冠した【七魔王】が君臨する。
怠惰、憤怒、色欲、強欲、暴食、嫉妬、傲慢。
彼ら一柱一柱が、一個の国家、あるいは一つの文明概念そのものを滅ぼしうるだけの個の武力を保持しており、人類が築いた防波堤を幾度となく蹂躙してきた真の災厄である。
深淵の玉座の間では、静かな、しかし重圧に満ちた対話が行われていた。
そこでは、中央を支配していたはずのジャバウォックの死すら、単なる「誤差」として処理される。
彼らにとって、ジャバウォックのような小魔王は便利な軍団長クラスの駒の一つに過ぎない。
その駒が一つ欠けたところで、魔族という巨大な機構の歯車が狂うことはないのだ。
「……ジャバウォックが堕ちた程度で、我々の理が揺らぐことはない」
冷酷な序列社会。
弱者は淘汰され、強者のみが世界の仕組みを決定する。
その静寂を破ったのは、グラマラスな身体を優雅に揺らす一人の女性であった。
「強欲」の魔王。
妖艶な笑みを浮かべつつも、その瞳には不快な色が混じっている。
彼女にとって、配下の敗北は戦略上の損失ではなく、自身の「所有権」が侵されたことへの嫌悪であった。
「ジャバウォックを殺した鼠……サキモリというのね。私は、私以外の何者かが私の所有物を奪うことを、決して許容しません」
彼女は紅い唇を歪め、空中に浮かぶ魔力の残滓を愛おしそうに撫でる。
「いずれ彼には、落とし前としてジャバウォックより有能な私の『コレクション』になってもらいましょう」
その言葉は呪いのように深く、甘く、深淵の空気を震わせた。
新たな観測対象が定まった瞬間、魔の深淵は静かに、しかし確実に牙を剥き始めた。
(第百五十九話へ続く)




