第百五十七話:【中央の夜明け:盾の盟約連合】
第百五十七話:【中央の夜明け:盾の盟約連合】
かつて「死の沈黙」が支配していた大陸南中央部に、今、確かな鼓動が戻りつつある。
小魔王ジャバウォックの支配下にあった時代、この地を覆っていたのは、色彩を奪われたような灰色の絶望だった。
国交は断絶され、民はただ明日をも知れぬ恐怖の中で、歴史から切り離された檻の中に閉じ込められていたのだ。
だが、街を歩く老人の目には、今や鮮やかな「生」の色彩が映っている。
市場には物資が並び始め、途絶えていた東方との国交回復を象徴するように、隣国の言葉が混じり合う。
サキモリという一人の男が理を打ち砕き、守り抜いたこの「小さな勝利」は、大帝国クリスタの主戦場から見れば些細な出来事に過ぎないのかもしれない。
しかし、昨日まで檻の中で震えていた名もなき民たちにとって、それはこの世の何よりも尊い、唯一無二の奇跡であった。
「盾の盟約連合」として再編された四カ国の代表たちは、バルバロイの議事堂で、東方の帝国とその連合国が寄せる「期待」の重さに身を引き締めていた。
その期待は、あまりに重く、鋭い。
彼らにとってサキモリは、最前線の勇者の欠員を埋め、停滞した戦況を打破しうる「辺境の異例の存在」として認識され始めている。
「我々にできるのは、あの御方を信じることだけだ」
代表の一人が呟く。
彼らは、既存のシステムを書き換えてしまったサキモリに、全幅の信頼という名の祈りを捧げる。
しかし、その熱狂の裏側で、不穏な風が吹き抜ける。
バルバロイの拠点に届いたのは、人類諸国連合の一角を担う強国、獣人国からの不遜な影であった。
「サキモリか……。その牙が本物かどうか、確かめさせてもらおう」
閉ざされた闇の中から、鋭い獣の視線が彼らの背中を射抜いていた。
(第百五十八話へ続く)




