第百六十話:【激動の予兆:世界は動き出す】
第百六十話:【激動の予兆:世界は動き出す】
聖域の冷気を背に、四人の影がゆっくりと山を下りていく。
それは一見すれば、困難な任務を終えた者たちの静かな帰還に過ぎない。
しかし、サキモリという「未知の変数」がもたらした波紋は、大陸アステリアの巨大な歯車を確実に狂わせ始めていた。
南東の防波堤で死線を彷徨う帝国の勇者たちは、戦友を待つような期待を込め、遥か南の空を仰ぐ。
大陸中央から北部・西部の深淵に潜む魔族の群れ、そして「強欲」の魔王は、己の所有物を奪った鼠をコレクションに加えんと、不快な視線を研ぎ澄ませている。
そして、直接の脅威に晒されていない傭兵国家・獣人国は、現れた「新たな駒」を自らの管理下に置くべく、不遜な策謀を巡らせていた。
南中央の「盾の盟約連合」が手にした小さな光は、皮肉にもこれら三つの巨大な勢力の視線を一箇所に集める結果となった。
下山するサキモリたちの背中には、本人たちの預かり知らぬところで、大陸全土の思惑という名の重圧が伸しかかっている。
もはや彼らは、世界の意志が作り出す「激流の渦中」から逃れることはできない。
ようやくバルバロイの堅牢な門が視界に入り、安堵の空気が一行に流れかけたその時、静寂を切り裂くような絶叫が響き渡った。
「サキモリ様! サキモリ様ッ!!」
駆け寄る伝令の顔は、恐怖に引き攣っている。
その手に握られた書状は、祝辞でも国交の打診でもなかった。
「東方の人類諸国連合に属する獣人国カーマインが……我ら盟約連合に対し、『降伏勧告』を宣言しました!」
平穏な幕引きは、音を立てて崩れ去った。
神域の力を得た勇者と三人の至高が最初に相対するのは、魔族ではなく、同じ人類による剥き出しの「支配欲」であった。
(第百六十一話へ続く)




