第百五十五話:【聖域を去る背中】
第百五十五話:【聖域を去る背中】
古龍ニドヘグの黄金の視線に見送られ、四人は静かに聖域の頂を後にした。
下山する彼らの足取りは、かつてないほどに軽い。
しかし、その背中から放たれる気配は、もはや人としての枠組みを完全に踏み越えていた。
かつて彼らを苦しめた聖域の原生生物たちは、四人の姿を視認するよりも早く、その圧倒的な存在密度に戦慄して道を空ける。
神の加護を得て「生ける特異点」へと変貌した彼らにとって、猛威を振るっていた自然の驚異すら、もはや取るに足らない事象に過ぎなかった。
四人の間には、静かな余裕が漂っている。
言葉を交わさずとも、互いの存在が大陸の均衡を破壊しかねないほど強固に繋がっていることを理解していた。
だが、その平穏な静寂は、麓に到達した瞬間に打ち砕かれる。
「サキモリ様! サキモリ様ッ!!」
雪線の影から飛び出してきたのは、血相を変えたバルバロイの伝令だった。
彼は四人の変容に圧倒され、一瞬言葉を失いかけるも、緊急事態の重圧がその口を無理やり開かせる。
「サキモリ様! 西方の【人類諸国連合】に属する獣人国カーマインが……東方のわれら【盾の盟約連合】へ『降伏勧告』を宣言しました!」
サキモリの瞳が鋭く細められる。
それは、平和な日常の終焉を告げる、大陸全土を巻き込む大戦乱の号砲であった。
(第百五十六話へ続く)




