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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第四幕・第五章 第三部:【四位一体:神域への抵抗】

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第百四十七話:【物理法則の消失】

第百四十七話:【物理法則の消失】


古龍ニドヘグが、その巨大な翼をゆっくりと広げた。


ただ一度の羽ばたき。


それだけで、聖域の澄み渡った静寂は、地形すら変容させる局地的嵐ダウンバーストへと一変した。


数トンもの雪と岩が舞い上がり、重力そのものが消失したかのような猛烈な圧力。


だが、突撃するサキモリの足取りは、一点の揺らぎもなかった。


「ルミナ先生、ベクトル干渉。第一層から第三層までを相殺キャンセル


『了解! 風向、風圧、魔力震動――すべて逆演算完了。おじさん、真っ直ぐ走って!』


ルミナの意識が、サキモリの視界に幾千の数式を投影する。


吹き荒れる嵐の「力の向き」を瞬時に解析し、魔力によってそのベクトルを正面から衝突させ、無力化する。


サキモリの周囲だけが、真空のように凪いだ「安全圏」へと固定されていた。


魔法によるゴリ押しではない。


物理法則を逆手に取った「空間支配」。


地べたを這い、神の影に怯えるしかなかった人間が、今、物理の理を統べる側へと回る。


「……氣の出力を固定。足場を生成します」


サキモリは体内の「氣」を体外へと爆発的に放射。


ルミナの演算サポートを受け、大気中の分子を強引に凝集・固定し、虚空に不可視の「外氣の足場」を創り出す。


パァンッ、と乾いた音が響く。


サキモリは重力を無視し、何もない空間を蹴り上げた。


一歩ごとに空気が爆ぜ、加速は限界を超えていく。


二次元の地上戦を捨て、三次元の制空権を奪取したサキモリの姿は、さながら天空を駆ける雷光だった。


(……見える。竜の、思考の隙間が!)


風を切り裂き、ルミナの演算で嵐の隙間を縫い、サキモリはついに竜の頭上――その黄金に輝く瞳と同じ高度まで肉薄した。


竜が、初めて驚愕に近い色を瞳に浮かべる。


数万年の歴史において、羽虫が己と同じ高みに「立って」挑んできたことなど、一度としてなかったはずだ。


「ここですッ!」


竜の眼前に到達したサキモリの右手が、鋭く引き絞られる。


その手に握られているのは、先ほど砕かれた「道具」ではない。


極限まで練り上げられた「氣」。


勝利を信じる仲間の「気」。


そして、三十年の研鑽が結実した「技」。


そのすべてを、一〇%の脆弱な肉体ではなく、九〇%の「存在の出力」をもって一つに束ねた。


道具モノに頼らぬ、サキモリという武人の本質そのものである「拳」が、竜の眉間へと突き出される。


(第百四十八話へ続く)

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