第百三十一話:【精霊王の最終試練・10%の劇薬編】 【隔離された観測者】
第百三十一話:【精霊王の最終試練・10%の劇薬編】 【隔離された観測者】
精霊王の玉座の間は、静謐という名の暴力に満ちていた。
一行が足を踏み入れ、挨拶を交わすよりも早く、事態は動く。精霊王が退屈そうに指先を弾くと、空間が幾何学的に歪んだ。
「きゃっ!? 何ですの、これ……!」
「サキモリ殿! 盾が、体が動きませ――」
悲鳴にも似た声は、黄金の結界の向こう側へと吸い込まれていく。アリサ、エレン、ルミナの三人は、それぞれ不可視の隔離壁によって物理的に分断された。
サキモリへと繋がっていた情報回線が、無残に焼き切られる。
「……出力、一〇%まで低下。心拍、血圧、正常。……少し、体が重くなりましたね」
サキモリは、自らの内にあった「万能感」が霧散するのを感じた。今の彼は、時速百キロで海を駆ける怪物でも、空間を割る剣聖でもない。
ただの、二十六歳の男だ。身体能力は一般の村人と大差なく、精霊王の放つ神威だけで肺が潰れそうなほどの負荷がかかっている。
「脆いな、人の子よ。まるで寄生虫のようだ。三人の支えを失えば、お前はただの塵に等しい。……その程度の器で、我が森の深淵を覗こうとしたか」
精霊王の嘲笑が、大気を震わせる。
だが、三人を隔離され、最弱の「一〇%」へと突き落とされたサキモリの瞳に、絶望の色は微塵もなかった。
彼はゆっくりと、周囲を見渡した。玉座の装飾に使われている鉱石、床に敷き詰められた苔、大気中に漂う高濃度の精霊魔力――。
サキモリの脳内では、もはや「力」の計算ではなく、この空間にある全ての物質を「兵器の材料」として再定義する、冷徹な観測が始まっていた。
「……寄生虫、ですか。確かに、彼女たちが居なければ私はこの世界の理を上書きすることはできません」
サキモリは乱れた呼吸を整え、武人としての正拳を静かに構える。その足元、踏みしめた床の苔から、微かに「化学変化」の匂いが立ち上った。
「ですが、一人にされたからといって、私が『無力』だと定義するのは、いささか早計ですよ」
(第百三十二話へ続く)




