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勇者召喚、ヤバいのが混じってた。 ~近代兵器と戦い抜いた男は、異世界で慈愛を振るう~  作者: 風水
第四幕・第三章:精霊の大森林編

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第百二十四話:【論理の解体】

「おのれ……下等な人間風情が、我らが聖域を穢したな!」


霧が晴れた地表で、精霊の斥候たちが絶叫した。


彼らは宙に浮き、その華奢な肢体から溢れんばかりの魔力を放射する。消された「歌」に代わり、今度は森全体の木々が不気味に発光し始めた。


精霊たちはこの森そのものを巨大な増幅器とし、さらに強力な「破滅の術式」を編み上げようとしていた。


「サキモリ様、空気が……森全体が怒りに震えていますわ!」


エレンが弓を握り直し、迫りくる魔力のプレッシャーに表情を強張らせる。


だが、サキモリは動かない。それどころか、退屈そうに周囲の巨木を見渡した。


「……怒り、ですか。ただの過負荷オーバーロードにしか見えませんがね」


サキモリは、懐中時計の秒針と、ルミナを通じて流れ込むノイズの減衰率を照合していた。


ECMで暴いた「霧の正体」は、単なる波形データ以上の事実をサキモリに突きつけていたのだ。


「アリサ殿、構えはそのまま。ルミナ先生、同期を維持してください。……エレンさん、今度は『放って』もらいます。ただし、殺傷用の矢ではありません」


「何をお作りすればよろしいの? サキモリ様」


「極めて微弱で、かつその場に長時間停滞し続ける『指向性ノイズ』を纏わせた魔力矢です。威力は必要ありません。ただ、そこに『在り続ける』だけでいい」


エレンは戸惑いながらも、サキモリの脳内から共有される「波形イメージ」を具現化した。


彼女の指先に生成されたのは、光り輝く矢ではなく、どこか不安定に明滅する、灰色のノイズを孕んだ奇妙な魔力矢だった。


「サキモリ様、これは……まるですぐに消えてしまいそうな、不完全な矢ですわ」


「それでいい。……エレンさん、時計回りに、十一時の方角、距離一五〇。地上から一二メートルの位置にある、あのねじれた巨木の『節』を射抜いてください。次は二時、次は八時……計五箇所です。できますね?」


「……お任せください。その程度の精密射撃、目を閉じていても射抜いて見せますわ!」


エレンの放った五本の矢が、空を裂いた。


それらは精霊たちに当たる直前で急カーブを描き、サキモリが指定した「ただの木々」の、それも特定の部位へと正確に吸い込まれた。


「……愚かな。そのような弱い矢で、我らの森を傷つけられると思うたか!」


精霊の一人が嘲笑い、とどめの術式を発動させようとした瞬間――。


パチッ、と。


世界から「音」が消えた。


「……えっ? あ、あれ?」


精霊が放とうとした巨大な魔力の塊が、まるで作画ミスのように霧散した。


それだけではない。眩いばかりに輝いていた森の木々が、ドミノ倒しのように次々と消灯し、ただの「暗い立ち木」へと戻っていく。


精霊たちは、自分が立っている高度を維持することすらできず、次々と地面へと墜落した。


「な、何をした……!? 我らの術式が、森との繋がりが、消えた……!?」


「種明かしをすれば、あまりに脆弱な設計デザインですよ」


サキモリは地面に落ちた精霊たちを見下ろし、淡々と解説を始めた。


「あなたたちは、この森の木々を魔力の中継器リピーターとして利用し、ネットワークを構築していた。……ですが、大規模なネットワークには必ず『ハブ』となる中継地点が存在する。エレンさんに射抜かせたのは、そのネットワークの論理的な結節点ノードです」


サキモリが指摘した木々には、エレンの放った「停滞するノイズの矢」が刺さっている。


その矢が放射する微弱なノイズが、精霊たちの魔力循環を物理的に遮断カットし、システム全体を「通信不能」に追い込んだのだ。


「森との共生という神秘を、あなたたちは信頼しすぎた。一箇所が詰まれば、全体が沈黙する。……軍事基地の通信塔を一本折れば、全軍が沈黙するのと理屈は同じです」


サキモリの言葉と共に、原生林から全ての「神秘」が剥ぎ取られた。


数千年間、侵入者を拒み続けた恐怖の森は、今やただの「静かで湿った古い森」へと成り下がっていた。


精霊たちは、自分たちの「武器」である魔法を全て奪われ、理解不能な論理で聖域を解体した「サキモリ」という名の異物を前に、戦慄して言葉を失った。


「さて。これでようやく、静かに話ができる環境になりましたね」


サキモリが穏やかな瞳で精霊たちを見据える。


その背後では、ただの静かな森の中で、アリサとエレン、そしてルミナが、未知の脅威を完封したサキモリの姿に、言葉にし難い畏怖と信頼を深めていた。


(第百二十五話へ続く)

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