第百十六話:浮遊する廃都
第百十六話:浮遊する廃都
死の山脈の雲海を抜けた四人の前に現れたのは、重力という物理法則を無視して天に浮かぶ、白亜の巨塔と街並みだった。
数百年前に失われたとされる古代空中都市――浮遊廃都セレスティア。
そこはファンタジーの神秘と、サキモリのいた世界を彷彿とさせるロストテクノロジーが混ざり合う、静寂の墓標だ。
「……ルミナ先生、こちらの古文書にある『概念を弾丸に変える銀の機構』という記述。……仮説に過ぎませんが、私の技術をより低負荷で現出させるための、近代兵器に近い構造を持つデバイスが眠っている可能性があります」
サキモリは、陽光に透ける自分の指先を見つめながら、推論を口にした。
「綺麗……。でも、おじさん。あちこちに見たこともない魔法の紋章が浮いてるよ。凄く冷たい感じがする」
ルミナが周囲を警戒しながら歩を進める。
崩れた回廊の隙間からは、精緻な歯車と魔力結晶が剥き出しになり、意味を失った回路が微かな音を立てて明滅していた。
「……何かが来ますわ。サキモリ様、私の後ろへ!」
エレンが鋭く叫び、魔力を練り上げる。
廃都の奥から現れたのは、錆び一つない銀色の装甲を持つ、人型を模した魔導機械――自動人形だった。
「アリサ殿、構えなくて大丈夫です。エレン、魔力放射を抑えてください」
サキモリの静かな制止に、アリサは驚きを隠せない。
「何を言う、サキモリ殿! あれは明らかに敵意を持っている。我らで叩き伏せねば――」
「いえ、私の『三割』を消費する必要はありません。……アリサ殿、右斜め前、三歩。盾を四十五度傾けて固定してください。……エレン、私の座標を基点に、左三十二度の虚空へ微弱な雷光を」
サキモリは一歩も動かず、ただ言葉だけで三人を導き始めた。
それは戦闘ではなく、精緻なパズルを解くような光景だった。
アリサの盾が放つ反射光が人形のセンサーを焼き、エレンの放った雷光の矢が空中の魔力残滓を誘導して、人形の駆動系を一時的なショートに追い込んでいく。
「ルミナ先生、仕上げをお願いします。人形の項にある第三水晶に、強制停止コードを流し込んでください」
「わ、分かった! ……えいっ!」
ルミナがサキモリの指示通りに接触すると、自動人形は深い溜息を漏らすようにその場に膝を突いた。
「……無力化成功です。三人の位置取りと魔力干渉だけで、このエリアの守護システムを『最適化』しました」
「……信じられませんわ。一度も剣を交えず、魔法をぶつけ合うこともなく、これほどの脅威を退けるなんて」
エレンが感嘆の溜息を漏らす。
かつてなら、サキモリ一人が一瞬で粉砕して終わっていた戦いだ。
だが今、彼は三人を「手足」とすることで、最小のコストで最大の結果を引き出した。
「三人がいてくれれば、私は戦う必要さえありません。……行きましょう。この先に、私の仮説を『正解』に変える、新たな力が眠っているはずです」
サキモリは、驚きと高揚を隠せない仲間たちを連れ、青白い光が漏れる廃都の中枢へと足を踏み入れた。
(第百十六話:完)
本日もお読みいただきありがとうございました。
11話更新企画にお付き合いいただきありがとうございました
少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。
『勇者召喚、ヤバいのが混じってた。』を応援していただける方は、ブックマークや評価をいただけると今後の執筆の大きな励みになります。
今後も引き続き毎日更新を続けていきますので、よろしくお願いいたします。




