第百十五話:再出発、暁の門出
第百十五話:再出発、暁の門出
王都の正門には、溢れんばかりの群衆が集まっていた。
魔王ジャバウォックを討った英雄の門出。
だが、そこに立つサキモリの姿に、人々は一瞬、戸惑いの声を漏らした。
そこにいたのは、鉄の規律を象徴する冷徹な軍服姿の将校ではない。
ルミナが「動きやすさ重視」で選び、エレンが「品格」を添え、アリサが「機能性」を認めた、仕立ての良い旅装――一人の青年としてのサキモリだった。
「おじさん、似合ってるよ! やっぱりその格好の方が、ずっと話しやすいしね」
ルミナが、新調した背嚢を揺らしながら笑いかける。
「……そうですか。まだ、肩のあたりが不自然に軽い気がしますが、ルミナ先生」
サキモリは、階級章のなくなった自分の肩をそっと撫でた。
軍服という鎧を脱いだ彼は、以前よりもずっと細く、今にも陽炎のように消えてしまいそうに見える。
だが、その左右をアリサとエレンが、背後をルミナがしっかりと固めている。
三人が形成する「共振アンカー」は、目に見えない光の鎖となって、サキモリの希薄な存在をこの世界に強く縫い止めていた。
「サキモリ様、そんなに硬くならないでくださいまし。私たちはもう、軍の駒ではありません。自由な『アルカディア小隊』なのですわ」
「うむ。サキモリ殿、貴殿が倒れそうになれば私が支える。貴殿の歩みは、我ら四人の歩みなのだ、エレン、ルミナ殿」
エレンの柔らかな微笑みと、アリサの力強い言葉。
サキモリは、かつての自分なら「非効率だ」と切り捨てていたであろうその温かさを、今は静かに噛みしめていた。
「……了解しました。一人では一歩も進めない『欠陥兵器』ですが……貴女たちがいれば、三割の出力で世界を歩き通せる。その可能性を信じましょう。アリサ殿、エレン。……ルミナ先生」
サキモリの口元が、わずかに、本当にわずかにだけ綻ぶ。
それは、彼が召喚されて以来、初めて見せた「計算外」の晴れやかな表情だった。
歓声に包まれながら、四人は王都を背に、未知の「死の山脈」へと歩み出す。
その頃、遥か彼方。
厚い暗雲に閉ざされた魔王城の謁見の間。
「ジャバウォックが、消えたか」
玉座に座る影が、冷たい声を響かせる。
一柱の魔王の死は、大陸の均衡を根底から揺るがしていた。
他の魔王たちは「未知の脅威」を排除すべく蠢き始め、同時に人類の王たちも、サキモリの存在を危険視、あるいは利用しようとする他国の軍靴の音と共に、静かに近づきつつあった。
世界という巨大な盤面が、かつてない速度で再構築されていく。
だが、街道をゆく四人の足取りは、驚くほど軽い。
絶望的な戦力差も、迫りくる他国の謀略も、今の彼らにとっては「これから解決すべき問題」に過ぎない。
朝日が、四人の背中を白く染め上げる。
兵器の落日は、冒険の夜明けへと書き換えられた。
(第一章:完)




