第百十三話:三つの鍵(アンカー)
第百十三話:三つの鍵
王立魔導研究所の演習場。そこには、円陣を組むサキモリ、ルミナ、エレン、アリサの姿があった。
これから行われるのは、サキモリの自壊を防ぎ、その戦闘能力を再建するための新システム「共振儀式」の初試行だ。
「……各員、接続を確認。ルミナ先生、固定状況は?」
「任せて、おじさん! おじさんの存在が消えないように、私が世界の記憶におじさんの存在をしっかり上書き固定しておくから!」
ルミナがサキモリの背後に立ち、その背に手を添える。
彼女の役割は、この世界の法則から零れ落ちようとするサキモリを、自身の魔導知識を介して「世界の記憶」の一部として無理やり固定し続ける「存在のアンカー」だ。
「エレン、攻撃権限の委譲を開始します。私は回避と接敵(身体操作)に専念します」
「承知いたしましたわ。サキモリ様の計算通りに……私の魔力を貴方の『牙』として放ちますわ!」
エレンがサキモリと魔力を同調させる。
サキモリが攻撃の意思決定を行い、その出力をエレンが肩代わりして放出する。
これにより、サキモリは自分自身の魔力を削ることなく、驚異的な身体能力と精密な格闘戦を両立させることが可能となる。
「アリサ殿、私の外装維持を。耐久値(HP)の共有を開始してください」
「うむ。私が近くにいる限り、いかなる衝撃も私の魔力が吸い取ってみせよう。サキモリ殿、貴殿の身はこの盾が繋ぎ止める!」
アリサが大盾を構え、サキモリの至近距離で守護のオーラを展開する。
彼女がサキモリと魔力出力を連結させ、自身の強固な防御性能をサキモリに転写することで、脆弱化した彼の耐久力を外部から補強するのだ。
「……儀式、最終段階。四身一体――駆動開始」
サキモリが軽く拳を握った瞬間、青白い光の鎖が四人を繋いだ。
三人がそれぞれの負担を肩代わりし、サキモリの摩耗を抑え込む。
「……演算終了。目標、完全沈黙」
演習用の強固な魔導標的が、一瞬で粉砕されていた。
かつてのサキモリなら、一瞥するだけで片付いた相手だ。
だが今、彼は激しい呼吸を繰り返す三人の肩を借りて立っている。
「……出力を確認。私の本来の約三割。……ですが、消滅の予兆はありません」
「たった三割……? おじさん、あんなに強かったのに……」
ルミナがどこか悲しげに声を上げる。
だが、サキモリは静かに首を振った。
「ルミナ先生、誤解しないでください。私の『三割』は、かつて交戦した準魔族の全力をも遥かに凌駕します。……三人との連携により、消滅のリスクを回避しつつこの出力を維持できる。これは、奇跡に近い戦果です」
一人では一〇パーセントの出力さえ危うかった。
だが、三人がいれば「強者」としての力を維持できる。
「……なるほど。四人で初めて、一人の『サキモリ』というわけですか」
サキモリは、自分を繋ぎ止める三人の負担を感じながら、新形態の起動ログを閉じた。
それは、かつての「孤独な兵器」が、仲間という名の「命の部品」を得て生まれ変わった瞬間だった。
(第百十三話:完)




