第百九話:終焉の残光、再会の咆哮
第百九話:終焉の残光、再会の咆哮
ジャバウォック城の城下に広がる、かつての市街地。そこは今や、巨大なクレーターと瓦礫の山が連なる、不毛の平原へと姿を変えていた。
東部戦線の絶望を切り裂いたエレン、中央戦線の地獄を耐え抜いたアリサ、そして南部戦線の炎を逃れたルミナ。
三人はそれぞれの軍の生き残りを率い、サキモリの足跡を追って、ついにこの魔族領の深部へと辿り着いた。
「あれは……」
アリサが声を震わせ、指をさす。
夜明けの薄明かりの中、クレーターの中心で「それ」は起きていた。
山のような巨躯を持つ魔王ジャバウォック。
人類の歴史上、一度として膝を屈することのなかった魔族領でも強国の1つである軍事国家の王が、今は絶望に顔を歪ませ、天を仰いでいた。
その巨大な胸の中央には、一人の人間の腕が、肩まで深く突き刺さっている。
サキモリだった。
だが、彼女たちの知るサキモリではない。
全身の毛穴から気化した血液が「黒い蒸気」となって立ち昇り、もはや人の輪郭すら定かではない。
凄まじい熱気が大気を歪ませ、彼が動くたびに周囲の空間が陽炎のように揺らめく。
「……ア、ガ……消失、完了」
サキモリが腕を引き抜くと同時に、拳を一点に突き出した。
ドォォォォォォォォォン!!
最後の一撃。
魔導障壁も、純魔族の強靭な肉体も、もはや何の意味もなさない。
四十ミリカノン砲の直撃を一点に凝縮したような破壊の波動が、魔王の巨躯を内側から爆破した。
「ああ……あああああ……ッ!」
魔王ジャバウォックが、光の粒子となって霧散していく。
その背後で、三人の少女たちはただ立ち尽くしていた。
四十万以上の軍勢をたった一人で「間引き」、魔王という概念さえも物理的に粉砕した男の背中。
そこには、神々しい勇者の輝きなどない。
ただ、平和な日常を守るという「一点の目的」のために、己の情緒も、肉体も、人間性さえも燃料にして燃やし尽くした、剥き出しの「軍人」の執念だけがあった。
彼女たちは知った。
自分たちが享受していた平和の裏側で、この男がどれほどの「狂気」を飼い慣らし、どれほどの激痛を「構造」として処理してきたのかを。
「サキモリ様……」
エレンが涙ながらに一歩踏み出す。
その瞬間、魔王の消滅と呼応するように、サキモリを包んでいた不吉な黒い霧が、ふっと熱を失って霧散した。
立ち昇っていた蒸気が消え、静寂が平原を支配する。
夜明けの光が、泥と血に汚れ、ボロボロになった一人の男の背中を、静かに照らし出していた。
(第百九話:完)




