第百八話:構造の解体:一点突破
第百八話:構造の解体:一点突破
クレーターの底から立ち上がるサキモリの視界は、既に鮮血のような赤一色に染まっていた。
稼働時間は四百時間を突破。脳は激痛の限界を超え、思考という高度な機能はとうに停止している。
今の彼を動かしているのは、脊髄に刻み込まれた「戦闘行動」のプログラムと、敵を解体するという生存本能のみに最適化された、純粋な生物学的命令だった。
「……ア、ガ……排除、開始……」
サキモリの全身の筋肉が、まるで独立した生き物のようにうごめき、位置を調整する。
「おのれ……! 死に損ないの分際でぇぇ!!」
対峙する魔王ジャバウォックが、手にした魔法金属の巨大棍棒を振り上げる。
同時に、魔王の背後に展開された数十の魔法陣から、最大出力の雷撃が掃射された。大地を焼き、空気をオゾン臭で満たす雷の奔流。
だが、サキモリは止まらない。
彼は回避を捨てた。雷撃が肉体を貫き、内臓を焼き、皮膚を炭化させる。
しかし、その刹那、六十倍の再生力が細胞を繋ぎ止める。焼けては再生し、崩れては再構築される肉体。
彼は光の嵐を「正面から突き抜ける」という、物理法則を無視した突撃を敢行した。
「馬鹿な……!? 灰も残らぬはずだぞ!」
驚愕に震える魔王が、全力を込めて巨大棍棒を振り下ろす。
城門を粉砕し、地形を変えるほどの質量。だが、サキモリはそれを避けなかった。
「……固定」
サキモリは、その鉄柱のような棍棒を、あえて剥き出しの「素手」で受け止めた。
ギギギギギギッ……!!
サキモリの腕の筋肉が、鉄が軋むような異音を上げる。三十倍の筋力が、魔王の怪力を真っ向から押し留めたのだ。
サキモリが拳を握り込み、腕を捻る。
バキィィィィィィン!!
凄まじい衝撃と共に、名だたる魔法金属で打たれたはずの巨大棍棒が、サキモリの筋肉の軋みだけで「圧折」された。
武器を失った魔王の懐に、サキモリの姿が吸い込まれる。
「なっ……」
「……終わりだ」
感情の抜け落ちた、低く重い呟き。
サキモリの右拳が、魔王の胸部、巨大な心臓が脈打つ構造の急所へと解き放たれた。
ドォォォォォォォォォン!!
一撃。
それは、四百時間の苦痛と、数万の敵を屠ってきた加速のすべてを一点に凝縮した、終焉の音だった。
(第百八話:完)




