第百四話:肉体という名の弾丸
第百四話:肉体という名の弾丸
ジャバウォックの城塞内部。そこは、魔族の中でも選りすぐりのエリート「純魔族種」が守護する、絶対不可侵の領域だった。
だが、その鉄壁の廊下を、一人の男が「音」を置き去りにして突き進む。
「……武器の耐久値、限界。廃棄する」
サキモリが手にしていた魔族の長剣が、凄まじい振りに耐えきれず、分子レベルで崩壊して消滅した。
彼は眉ひとつ動かさず、無造作に次の獲物を拾い上げる。倒した敵の斧、槍、あるいはただの鉄塊。
サキモリがそれを手に取り、一振りすれば、敵軍の隊列は一瞬で消し飛ぶ。
しかし、彼の身体能力――全盛期の「出力」の前では、この世界のいかなる名剣も、一撃ごとに砕け散る「使い捨ての消耗品」に過ぎなかった。
ついに、手に持てる武器がすべて尽きた。
ジャバウォック防衛の要、将軍とその精鋭たちが、冷笑を浮かべて立ち塞がる。
「武器を失ったか、哀れな人間よ。純魔族の肉体強度は、貴様の想像を絶するぞ!」
「……問題ない。元より、これ(武器)はリミッターに過ぎない」
サキモリは、血と汗で黒く染まった拳を、静かに握り込んだ。
「徒手空拳。……これこそが、最も効率的な破壊手段だ」
その言葉が終わるより早く、サキモリの姿が消えた。
空手、柔術、剣道。かつて彼が極めたあらゆる武道の「理」が、三十倍の身体能力という「狂気」によって再構築される。
ドォォォォォォン!!
サキモリの拳が、飛来する戦艦の砲弾にも等しい超火力の魔法弾を、正面から「砕き散らした」。
爆炎を突き抜け、彼はそのまま城壁を蹴る。
ただの踏み込みが、数メートルの厚さを持つ魔法増幅の城壁を、内部から爆破するように粉砕した。
「な……馬鹿な! 純魔族の肉体こそが最強のはずだ!」
精鋭の一人が叫びながら突進する。
だが、サキモリはそれを柔術の理で受け流し、指先をわずかに敵の胸元へ添えた。
ボシュゥゥゥゥゥン!!
「――構造の破壊」
サキモリが指先から放ったのは、衝撃波を一点に凝縮し、波紋のように内部へと浸透させる「透勁」。
次の瞬間、触れられた精鋭の肉体が、内部から噴き出す圧力に耐えきれず、風船のように破裂した。
魔力でも魔法でもない。ただ、肉体の振動を共鳴させ、物質を内部から崩壊させる「純粋な物理の極致」。
サキモリは足を止めない。
指先が触れるたび、肩がぶつかるたび、エリートと謳われた純魔族たちの頑強な肉体が、内側から爆ぜて霧へと変わっていく。
「ア、ガ……ハッ……。……次だ」
サキモリの全身からは、限界を超えた熱気が黒い蒸気となって立ち昇る。
彼の肉体そのものが、今や人類最古にして最強の「弾丸」と化していた。
恐怖に顔を歪める将軍の目の前で、サキモリは返り血を拭うことさえせず、ただ無機質な殺意をその指先に宿らせていた。
(第百四話:完)




