第百三話:文明の蹂躙:戦闘機と槍
第百三話:文明の蹂躙:戦闘機と槍
魔族領の最前線に位置する軍事国家『ジャバウォック』。
そこは、人類が数百年かけても到達し得なかった「暴力の結晶」が積み上げられた場所だった。
「来たか、呪われた人間め……!」
ジャバウォックの城塞前。
地平線を埋め尽くすのは、人類から制空権を完全に奪い去った空戦乙女兵団と、巨山のごとき体躯を持つ巨獣歩兵たち。
そして、城壁に並んだ数百の魔導兵器が、一斉にサキモリへとその砲門を向けた。
だが、一人でその軍勢の前に立つサキモリの瞳に、畏怖の色はない。
赤黒く光るその眼光は、ただ淡々と、目の前の脅威を「既知のデータ」へと変換していた。
「……空中目標、飛行速度マッハ0.5以下。運動性はレシプロ機(戦闘機)以下。……高度800、重爆撃機の基準に満たない。脅威度は、低い」
サキモリの喉から漏れるのは、感情を削ぎ落とした解析の言葉だ。
魔族たちが誇る、空を舞う精鋭の「翼」を、彼はかつて戦った空の鋼鉄――**『戦闘機』や『爆撃機』**と比較し、あまりの鈍さに失望すら覚えていた。
「撃て! 塵も残さず焼き尽くせ!」
合図と共に、城壁から圧倒的な魔力砲火が放たれた。
空を焦がす火炎、大地を削る雷撃。
人類を絶望させたその魔法火力に対し、サキモリは一歩も引かず、むしろ加速した。
「……掃射開始か。弾道予測、単調。弾幕密度は20ミリ機関銃の15%にも満たない」
サキモリの肉体が爆ぜる。
彼は、降り注ぐ火球の間を、まるで雨を避けるようにすり抜けていく。
彼にとって、この世界の「最強の魔法」は、全盛期の戦場で浴び続けた**『機銃掃射』や『対空砲火』**に比べれば、止まって見えるほどに遅く、隙だらけの光景だった。
サキモリは、地面に突き刺さっていた数本の平凡な槍を、無造作に掴み取った。
「――迎撃を開始する」
一歩踏み出し、全身のバネを槍の穂先に一点集中させる。
三十倍の筋力が生み出す投擲エネルギーが、一本の鉄の棒を、音速の壁をぶち破る「対空ミサイル」へと変貌させた。
ドシュゥゥゥゥゥン!!
一閃。
サキモリが投げた槍は、空を舞っていた「戦闘機」代わりの空戦魔族を一撃で爆散させ、その後方にいた「爆撃機」役の巨大怪鳥をも巻き込んで、空を紅蓮の炎で塗りつぶした。
「ば、馬鹿な!? 槍一本で、我が精鋭たちが……!」
「……次は、地上目標。巨獣、重量は**『重戦車』**と同等か。装甲厚は……素手で十分だな」
サキモリは空中で武器を使い捨て、そのまま巨獣の群れへと突っ込んだ。
城門を突き破るはずの巨獣の突進。
それをサキモリは正面から掌で受け止める。
ズガァァァァァァァン!!
衝撃波が大地を裂く。
**『空母』**の接岸にも等しい圧倒的な質量を持つサキモリの肉体は、巨獣を真っ向から押し返し、その心臓を拳一つで「貫通」させた。
ジャバウォック軍が誇る軍事文明。
人類を恐怖の底に叩き落とした巨獣も、空飛ぶ兵団も、サキモリにとっては「旧時代の玩具」を壊す作業に過ぎなかった。
「……文明のレベルが低すぎる。これでは、掃除にもならない」
黒い軍服を翻し、サキモリは破壊された残骸の中を、ただ真っ直ぐに進む。
圧倒的なスペック差。
魔王軍が積み上げてきた「軍事の正解」は、全盛期のサキモリという「本物の戦争」を知る怪物の前に、音を立てて瓦解していった。
(第百三話:完)




