ファントム、依頼される18
「これ以上は意味がないな」
そう言うと、灰島は静かに接続を切った。
「……さてと。こっちも『お宝』、たんまり、ゲットだぜ」
灰島の勝利とほぼ同時に、瀬尾がニヤニヤしながらキーボードを叩く手を止めた。
「どうだったの、瀬尾さん!?」
玲奈が身を乗り出す。
「大当たりだ。いただいた専用VPN回線は、AI『ステラ』にアクセスしたら、セキュリティがAEGISだなんて、俺に『秘密』を見てくださいって言ってるようなもんだね」
瀬尾がモニターに抜き取ったばかりの内部資料を映し出した。
「まず、これが、AI『ステラ』が分析した全VIP客の『脆弱性スコア』。政治家、大企業のCEO、芸能人……いつ、どこで、どれだけ負けて、どれだけ『操りやすい』か、全部書いてある。これを週刊誌に売ったら、日本がひっくり返るぞ」
「最悪ね……」
ユキが顔をしかめる。
「で、こっちが本命。これはちょっと俺でも驚いたけどね」
「え? なになに!?」
玲奈に急かされ、瀬尾が別のファイルを開く。
「カジノは表の顔に過ぎないってこと。ステラは客の『脆弱性』だけじゃなく、その客の裏の資産背景、SNSの裏アカウント、果てはダークウェブでの購入履歴まで、違法にプロファイリングして、選別している」
「だから、爵位をもらえたらキングと同じテーブルにつけるんでしょう?」
当然のようにユキがそういえば、瀬尾は「ちっちっちっ」と首を振る。
「さらに続きがあったのさ。キングと遊んだ後、それこそが本命」
そう言いながら、瀬尾は画面を変えた。
「……オークションか!」
灰島の発言に、瀬尾はニヤリと笑う。
「あぁ、しかもオーナーが直々に行う、『闇のオークション』だ」
瀬尾が画面に映し出す絵画の数々。誰一人、美術に詳しいわけではない。 それでも、ある作品に灰島は目を細めた。
「盗品のオークション」
「正解」
二人の会話に、ユキは思いだしたように顔を上げた。
「アルケナ! もしかして彼らも!?」
そう質問するユキに、瀬尾は「多分ね」と言いながら、出品リストを表示した。
そこには、近年美術館から盗まれた有名画家の名前がずらりと並んでいた。
「このカジノは、世界中の盗品を『洗浄』するための『品評会』だったというわけだ。横浜は目の前が港だから、運び込むのも運び出すのも楽なんだろう」
灰島はそのリストの中に、先日ニュースを賑わせた絵画の名前も見つけた。
「……悪くないカードだ」
すぐにでも乗り込めば、カジノごと壊滅させることはできるだろう。
「ちなみに、キングは『カジノ』の売上の一部を、オーナーに隠れて横領してんの。やることも小物だよな」
そう、そのキングから師であるプロフェッサー・シルクの手帳を取り返すこと。
その時、灰島のPCにメールが届いた。送り主はカジノ『エリュシオン』。
『クロウ様、あなたこそ『本物』です。ぜひとも我がエリュシオンでその腕を生かしていただきたい。勿論、あなたへの報酬は──』
「いい条件じゃね?」
茶化す瀬尾に、「馬鹿を言わないで準備しろ」と注意しつつメールを返信する。
送信ボタンを押す。と【送信完了】の文字が画面に浮かぶ。
「明日の夜、ショーの最終幕だ」
そう言って、灰島はPCを閉じた。




